理事長からのご挨拶

理事長挨拶

一般の皆様へ

生理学と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。生理学とは、平たく言えば、生命の仕組みを研究する学問です。ヒトはなぜ呼吸をするのか、走ると息が切れるのはどうしてか。ヒトはなぜ眠たくなるのか、寝ているときの脳はどうなっているのか。ストレスがかかると病気になるのはどうしてか、予防するにはどうしたらよいか。私たちはこの仕組みを、分子から、細胞、臓器や生体にわたって調べます。遺伝子や培養細胞、あるいは動物モデルなど、様々な現代科学の手法を駆使して問題の解明に挑みます。

生理学とは、古代ギリシャ語で生命の仕組みの研究をさします。環境に適応するメカニズムや、ストレスに反応する仕組みの研究です。これが人体の機能の解明につながり、それを知ることで人間は健康で快適な生活を送ることができます。ですから生理学は、医学の根本をなすものです。有名な「ノーベル医学賞」は略称で、本当は「ノーベル生理学あるいは医学賞」という名前なのです。それだけ生理学という学問が大切ということかもしれません。

日本生理学会が設立されたのは、今から100ほど前の1922年。日本の医学会でも有数の歴史をもちます。ちょうどオスマン帝国が滅亡したころです。人間が生理学研究の大事なテーマであることは、今も変わりありません。でも100年前の環境やストレスは、現在とは大きく異なるでしょう。ですから生理学は時代とともに進化し続けます。

私達は、日本の生理学研究を推し進め、国民の健康で快適な生活に貢献します。様々な政府機関や地方自治体、関連する諸学会、さらには大学などの教育機関とも連携を進めます。国際的にも、世界の生理学会連合はもちろん、アジア・オセアニア地域の生理学会連合では、主導する役割を果たしております。日本生理学会が発行する英文生理学雑誌は、世界でも最高クラスの生理学会誌です。日本をはじめ国内外の研究者から、切磋琢磨した研究成果が続々と発表されています。

日本生理学会では、毎年の生理学会大会に加えて、各地方での大会、学会のアウトリーチ活動による社会普及を目指します。大会では市民講座を開いて、市民の皆様に分かりやすい企画シンポジウムを開いています。さらに大会では教育セッションを通じて、広く生理学教育のプロを育てています。

一人でも多くの若者が生理学研究に興味を持ち、日本の生理学研究をさらに進めてくださることが私達の願いです。そのために、若手研究者の育成や、女性研究者が活躍しやすい環境を作っていきます。国際的にも一層に開かれた学会を目指します。そして何よりも、100年後の子孫のために生理学研究を育てていくのが我々の役目です。

日本生理学会の発展には、市民の皆様のご理解と援助が必要です。ご意見やご質問があれば、いつでも事務局までお問い合わせください。

日本生理学会理事長: 石川 義弘(横浜市立大学)

日本生理学会会員の皆様へ

2020年3月に日本生理学会の理事長を拝命し、2022年3月の総会にて再任されさらに2年間務めさせていただくこととなりました。

この2年間は世界的なCOVID感染の影響を受けて、学会の最大行事である生理学会大会の開催も苦戦を強いられましたが、大会長のご尽力によりなんとか切り抜けることができました。逆にウエブ参加が普及し、利便性が高まったのは大きな進歩と考えます。さらに第99回東北大会では、会期中に強度地震に見舞われ、記憶に強く残る大会となりました。そして2023年3月には、いよいよ100周年記念大会を迎えます。

次の100年に備えるべき課題も明らかになってきました。

ひとつは研究力の向上です。生理学に限りませんが、世界的な競争もあり、我が国の研究水準が地盤沈下しつつあります。生理学は医学の根源であり、生命体における機能とメカニズムの基盤研究です。日本の基礎医学研究の根幹を担う学会として、生理学研究の強化を図らねばなりません。

研究強化に欠かせないのは人材育成であり、人材育成に必須なのは教育です。生理学教育を普及させることにより、生理学研究者が育成されます。生理学の研究に必要なノウハウは、学会としてあるいは各研究機関に、この100年で膨大な量が蓄積されました。ところが教育のノウハウは追いついていません。教育もサイエンスであり、データに基づいたノウハウの形成と伝授が可能です。この点において生理学エデュケーター制度が立ち上がり、生理学教育を効果的に行うためのお手伝いを開始しました。この資格は医学部など6年制大学だけでなく、幅広く4年制大学で生理学教育に携わる先生方にも役立つよう設計しています。生理学会では、神経科学や循環生理学と同等な専門分野として、生理学教育を捉えています。これは学会の基本姿勢の表れですので、詳しくは会員HPの専門分野の選択をご覧ください。また大学院も含めた高度な生理学教育に進みたい先生方には、さらなるエデュケーター資格の充実を検討しています。

日本生理学会の特徴は、会員と研究分野の多様性です。医歯薬獣医はもちろん、体育や栄養、情報通信など、会員の背景は様々です。この多様性は日本生理学会の最大の強みであり、今後ますます増強していきたいと思います。またその多様性を支えるように、理事会や委員会などの学会の仕組みをよりよいものに検討できればと思います。

我が国の基礎研究を支えるインフラ作りも重要と考えます。そのためには共通の課題を抱える基礎系学会との連携が必須と考えています。生理学会はこれまでも他の基盤学会と大会の共同開催を行いましたが、これをさらに拡大していきたいと思います。生理学研究に幅を持たせ、学際的な共同研究をすすめることは、我々の生理学研究の強化につながると思います。また国際的な連携をすすめ、アジアから世界をリードする日本生理学会への発展を遂げるのが目標です。

たくさんの希望や夢を述べさせていただきました。ですが日本生理学会は会員の皆様によって創られる学会です。ひとりひとりの会員が支える学会です。次の100年に向けた仕組み作りを進めるのが、私の理事長としての使命と考えます。会員の皆様からご提案やご意見がありましたら、どうか遠慮なくお申し付けください。

日本生理学会理事長: 石川 義弘(横浜市立大学)