081.心肥大シグナル分子カルシニュリンの制御に関わる意外なpHysiology

心臓の肥大化に関わる中心的なシグナル分子としてCa2+依存性脱リン酸化酵素カルシニュリン(CaN)が知られています。CaNは転写因子NFATを脱リン酸化し、核内に移行させることで、様々な心肥大関連遺伝子の発現を亢進します。しかし、CaNが興奮収縮連関に伴う細胞内Ca2+上昇とどのように区別されて活性化されるのは明らかではありません。今回私達は、CaNへのシグナル伝達がCa2+とは見かけ上無関係な細胞内pH調節を担う形質膜Na+/H+交換輸送体(NHE1)を介して起こることを見出しました。私達はNHE1がその細胞質領域に存在する6残基配列モチーフPVITIDへの直接結合を介して、NFATの核内移行およびプロモータ活性を促進し、心肥大に導くCaN—NFATシグナルを増幅しうることを明らかにしました。この研究で明らかになった重要な点は、CaNがpH上昇によっても著しく活性化される酵素であるということです。詳しい解析から、リセプター刺激によるNHE1活性化がその近傍で高いpH環境を形成し、NHE1のCaN結合部位が一時的なプラットフォームとして機能することによって、CaN—NFAT系を効率よく活性化するという新しい経路の存在が初めて示されました。この研究は、pHを制御するトランスポータとCaNとの意外な機能連関を示した初めてのケースと言えると思います。(Hisamitsu T, Nakamura TY and Wakabayashi S, Mol. Cell. Biol. 32:3265-3280, 2012)

図の説明

NHE1によるCaN—NFATシグナルの増幅モデル。
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NHE1がリセプターアゴニストによって活性化されると(1)、高いpH環境が形成される(2)。pH上昇はCa2+親和性増加によってNHE1に結合したCaNを活性化し(3)、NFATの脱リン酸化をもたらす(4)。NFATは核内に移行し、様々な心肥大関連遺伝子の発現を促す(5)。pH制御系のNHE1が、CaN結合部位を介してCaN—NFATシグナルを増幅する経路の存在が示唆された。