167. 視交叉上核バソプレシン細胞が、他の視交叉上核細胞の概日リズム周期を決定

私たちは外界の明暗リズムに合わせて、明るい時には活動し、暗い時には眠ります。生体内には周囲の明暗リズムがなくても、自律的に活動・睡眠リズムをコントロールする機構が備わっており、それを概日リズムと言います。哺乳類の概日リズムは視床下部の視交叉上核で制御されており、視交叉上核の破壊により概日リズムは消失してしまいます。

夜行性のマウスを遺伝子工学的に改変し、視交叉上核バソプレシン細胞で概日リズムの周期を長くしたマウスでは、行動の概日リズムが長くなります。しかし視交叉上核にはバソプレシン細胞だけでなく他の細胞も存在しており、この時他の細胞の概日リズムはどうなっているのか、詳細は不明でした。

今回私たちは生きたマウスの脳内から、バソプレシン細胞と他の視交叉上核細胞のカルシウム活動を二週間連続して記録する、ファイバーフォトメトリー法を確立しました。その結果遺伝子改変マウスでは、バソプレシン細胞が24時間より長い周期で活動しているだけでなく、視交叉上核の他の細胞の周期もバソプレシン細胞に一致して24時間より長いことを明らかにしました。このことは、視交叉上核バソプレシン細胞が、視交叉上核の他の細胞の周期にも影響を及ぼし、マウスの行動周期を決めていることを示しています。

In vivo recording of suprachiasmatic nucleus dynamics reveals a dominant role of arginine vasopressin neurons in circadian pacesetting. Tsuno Y, Peng Y, Horike S, Wang M, Matsui A, Yamagata K, Sugiyama M, Nakamura TJ, Daikoku T, Maejima T, Mieda M. (2023) PLOS Biology 21: e3002281 (https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3002281)

<図の説明>

図. 視交叉上核全体の活動と自発運動活動の一日の周期が、視交叉上核バソプレシン細胞によって決まる

(上)マウスの自発行動(黒)と視交叉上核バソプレシン(AVP)陽性細胞のカルシウム活動(赤)の同時記録。5日間の明暗環境の後、10~12日間常に暗い環境で飼育する。室内光がオンの時を白背景、オフの時を灰色の背景で表示している(縦軸は日、横軸は二日間の時間)。マウスは夜行性のため室内光がオフの時に活発に活動し、その活動のタイミングは恒暗環境になっても維持される。正常マウス(左)に比べてAVP細胞でCK1δ(カゼインキナーゼ1デルタ)を欠損したマウス(右)では、自発行動の恒暗環境での一日の周期が長くなっている。AVP細胞カルシウム活動の一日の周期は、遺伝子欠損マウスで延長していた(右)。

(下)マウスの自発行動(黒)と視交叉上核の血管作動性腸管ペプチド(VIP)陽性細胞のカルシウム活動(緑)の同時記録。AVP細胞でCK1δを欠損したマウス(右)では、VIP細胞のカルシウム活動の一日の周期も延長していた。