170. 活動電位の速い立ち上がりを可能にする分子機構の手がかりを捉える

活動電位はイオンチャネルの開閉によって形成される生体の活動に必須の電位です。例えば、心電図は心臓での活動電位、脳波は脳での活動電位を記録したものです。活動電位が初めて記録されたのは1939年のことであり、その速い立ち上がりにはNa+チャネル(Na+イオンを主に通すイオンチャネル)の協同的な開口が関係していると考えられていますが、協同的な開口の分子機構は未だに分かっていません。本研究では、分子の動きを撮影できる高速原子間力顕微鏡を用いることで、閉じた状態ではチャネルの膜電位を感知する領域がイオンの通り道から離れることを示しました。また、この離れた領域同士で相互作用することが示唆されました(図左)。さらに、理論的な計算により、現実の神経細胞においてもそのような相互作用ネットワークを形成しうることを明らかにしました。この相互作用ネットワークはチャネルが開口する際には一斉に解除されると考えられます(図右)。この機構は、80年以上未解明であった協同的な開口の分子機構の有力な候補となります。

Voltage sensors of a Na+ channel dissociate from the pore domain and form inter-channel dimers in the resting state. Ayumi Sumino, Takashi Sumikama, Mikihiro Shibata, Katsumasa Irie. Nature Communications 14: 7835, 2023.

<図の説明>

閉じた状態のNa+チャネルが作るネットワーク(左)と開いた状態のNa+チャネル(右)の模式図。