080.脳は早いニオイ情報と、おそいが精度の高いニオイ情報を別々の経路で処理する

私たちはニオイを感じるとき、多くの場合、まずそのニオイがあること自体に気がつき、次に何のニオイだろうと思ってクンクンと嗅ぐことでニオイを判別します。今回、私たちの行った生理学実験から、脳の中のニオイ情報を司る嗅球では、別々の細胞群が「早いニオイ情報」と、「遅いニオイ情報」をそれぞれ処理していることが明らかになりました。さらに、細胞の形態を可視化する解剖学実験から、この二種類の細胞群(それぞれ、房飾細胞と、僧帽細胞)が、嗅球よりさらに高次の嗅皮質と呼ばれる領域のなかでも、全く別々の領域に情報を送ることが明らかになりました。遅いニオイ情報を担う僧帽細胞は、以前より、房飾細胞よりも精度の高いニオイ情報を処理することが知られていました。よって、脳には、やや精度が低くてもニオイが「存在する」ことを取り急ぎ知らせる経路と、少し遅れて精度の高いニオイ情報を処理する経路とが、別々に存在すると考えられます。今回の発見は、ニオイの感覚を理解する上で欠かすことの出来ない知見であり、今後の基礎的な脳科学、および臨床的な耳鼻咽喉科学の研究に大きく寄与するものと期待されます。
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Parallel Mitral and Tufted Cell Pathways Route Distinct Odor Information to Different Targets in the Olfactory Cortex

The Journal of Neuroscience, June 6, 2012 • 32(23):7970 –7985