060.チャネル分子のねじれがイオンの通り道を開閉する

チャネル分子は細胞膜上にあり、細胞内外を出入りするイオンの通り道(ポア)となる。チャネルは様々な刺激に応答してポアを開閉(ゲートの開閉)するが、それはどのような機構で、どのような構造の変化を伴うのだろうか。チャネルの立体構造(結晶構造)は10年前にすでに解明されていたが、チャネルが機能するときの構造変化を捉えることは不可能であった。結晶構造というチャネルのスチール写真(静止像)ではなく、ダイナミックに機能する動画を見たい。私たちはX線1分子計測法により1分子のチャネルがゲーティングする構造変化をビデオ記録することに成功した。微小な金結晶を結合したKcsAカリウムチャネルに高輝度放射光(SPring-8)を照射し、1分子の構造変化に応じて変化する回折点を追跡した。チャネルが閉じた状態ではごくわずかな分子のゆらぎが観察された。一方、チャネルが開閉する際にはチャネル分子の中心軸の周りに大きくねじれることが観察された。チャネル分子の骨組みであるαヘリックスの束がイオン通路の開閉に際し大きく絞られ、緩められることが明らかになった(H. Shimizu, M. Iwamoto, T. Konno, A. Nihei, Y. C. Sasaki & S. Oiki: Global Twisting Motion of Single Molecular KcsA Potassium Channel upon Gating. Cell 132, 67-78, 2008)。
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図の説明

チャネルの開閉は分子のねじれによりおこる チャネル分子は細胞膜(黄色)を貫通する領域(膜貫通ドメイン)と細胞内に突き出た領域(細胞質ドメイン)からなる。膜貫通ドメインは分子の骨格であるαヘリックス(茶色)が束ねられたものである。この束の中心にイオンが通る通路ができる(ポア)。チャネルが閉じているときはこの束が細胞内に近いところで交差し、イオンの通り道は遮断されている(閉状態)。チャネルが開くにはヘリックスの束が緩み、これが細胞質ドメインにも伝わり、分子全体のねじれ運動として観察される。