059.体温の調節に必要な温度感覚経路

寒い冬の日に薄着して外へ出ると、ブルッと体が震えることがよくあると思います。これは、環境温度が低いことを皮膚の冷受容器で感知し、その信号が脳内の体温調節中枢である視索前野に素早く伝えられることで、体の深部温が低下してしまう前に骨格筋が震えて熱を作るように体が反応しているのです。

今回私達は、この体温維持反応に必要な、皮膚の温度情報を視索前野へ伝える神経経路をラットを用いて明らかにしました。まず、皮膚の冷覚情報を脊髄後角から受け取って視索前野に直接伝達するニューロンが脳幹の外側結合腕傍核という部位に密に分布することを見つけ、単一細胞レベルで同定しました。そして、外側結合腕傍核の神経伝達を阻害すると、皮膚を氷水で冷やしても震えや褐色脂肪組織における熱産生が起こらなくなりました。これらの結果は、皮膚の温度情報が脊髄—外側結合腕傍核—視索前野という経路によって伝達され、体温調節に重要であることを示しています。
また、温度を知覚するのに必要な神経経路である脊髄視床皮質路を破壊したラットでも皮膚を冷やすと熱産生反応が正常に起きたので、温度知覚の仕組みは自律性体温調節に寄与しないことが分かりました(Nature Neuroscience 11: 62–71, 2008)。
この体温調節に必要な温度感覚経路は、温度知覚の仕組みとは違って他の感覚(視覚や聴覚など)の影響を受けにくく、純粋に温度情報だけを伝達して、環境温度の変化から生体の恒常性を守ることに特化した機能を担っていると考えられます。私達の生命維持に重要な体性感覚システムが明らかになったことで、今後、多様な環境を生き抜くための生体の巧みなメカニズムがさらに解明されていくものと期待されます。
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図の説明

温暖環境下では視索前野から下向性に投射するGABA作動性ニューロンが対寒反応をつかさどる効果器経路を常に抑制しているが、寒冷環境下で皮膚が冷却されると、一次求心性神経が活性化され、その冷温度情報が脊髄後角を介したグルタミン酸作動性入力(Glu)として外側結合腕傍核に伝わる。活性化された外側結合腕傍核ニューロンは視索前野にグルタミン酸作動性入力を行い、GABA作動性介在ニューロンの活性化を介して抑制性投射ニューロンの活性を低下させることで、効果器経路を脱抑制し、対寒反応を惹起する。破線は皮膚温度の知覚に関わる脊髄視床皮質路。赤、青、白抜きの丸印はそれぞれ、活性化された興奮性ニューロン、活性化された抑制性ニューロン、静止状態の(あるいは抑制された)ニューロンを示す。