039.慢性疼痛とBDNFの役割

神経栄養因子の一つである BDNFは、中枢神経系における可塑的な変化に重要な役割を果たしている。本研究ではラット脊髄後角の膠様質細胞から記録を行い、慢性炎症に伴って惹起さ れる可塑的変化に対するBDNFの役割を解析した。BDNFとその受容体のTrkBは炎症初期にのみ発現がみられ、テトロドトキシン抵抗性Naチャンネル を活性化してグルタミン酸放出を増大させた。また、炎症に伴い触覚を伝えるAβ線維が、痛みに関連する膠様質に軸索発芽をおこすため、触刺激でも痛みを感 じるアロディニア(異痛症)の発現機序と考えられた。あらかじめ抗BDNF抗体で処置しておくと、伝達物質放出や軸索発芽が阻止されアロディニアが減弱し た。これらのことからBDNFは痛覚伝達系の可塑性発現における責任分子と考えられ、炎症初期のBDNFの作用を抑制する、または脊髄後角表層における興 奮性の増大を減弱する事が、アロディニアや種々の慢性疼痛の治療に有効である可能性が示された(Journal of Physiology (London), 569.2, 685–695, 2005)。
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図の説明

炎症ラットではC線維からBDNFが脊髄内に放出され、グルタミン酸の放出増加とAβ線維の膠様質ヘの軸索発芽を惹起する(A)。抗BDNF抗体を腹腔内投与した炎症ラットにおいてはAβ線維の軸索発芽が阻止され、アロディニアが抑制された(B)。