026.基底細胞間のバリアーが蝸牛内電位の保持と聴覚に必須である

音受容に重要な役割を果たす内耳中央階の内リンパ腔(有毛細胞の不動毛が面している)には、+80 ~+100 mVの電位が存在します。これは蝸牛内電位(EP)といい、音による不動毛の振動で有毛細胞に脱分極性の電気信号(受容器電位)を生じさせるための駆動力としてとても重要なものです。+のEPは内耳の側壁にある血管条で作られるのですが、血管条のどの部分で作られるのかはいまだに分かっていません。

血管条は辺縁細胞と基底細胞による二カ所の細胞シートにより周囲と分けられています。これらの細胞間をシールする構造がタイトジャンクション(TJ)です。私たちは今回、基底細胞のTJを構成する膜蛋白のクローディン11をマウスで欠損させることで、基底細胞のTJを消失させてこの部分のバリアーを選択的に破壊することに成功しました。その結果EPは正常の約1/3まで低下したのです(The Journal of Cell Science 117: 5087-5096, 2004)。
このことは、基底細胞のバリアーによる血管条内の環境の維持が、高いEPを保持する上で必須であることを示します。また、辺縁細胞の機能しか残っていないこのノックアウトマウスでも30mV前後の+EPが存在することから、辺縁細胞も+EP産生に寄与すると考えられました。
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図の説明

左:内耳(蝸牛)の断面図。中央階に面する側壁に血管条が存在します。
中央:正常な血管条の模式図。血管条は辺縁細胞(黄色)と基底細胞(ピンク色)でかこまれた閉鎖腔で、それらの細胞間をシールして漏れを防ぐのがタイトジャンクション(TJ、赤色)です。この血管条で+80 mV~+100 mVのEPが形成されます。

右:クローディン11をノックアウトすると、基底細胞間のTJが破壊され、血管条内はラセン靱帯と相同の環境になってしまいます。この状態ではEPは約 1/3に低下し、血管条内の環境の保持が高いEPを産生するために必要であることが分かりました。