031.電圧センサーをもつ酵素を発見 (電気信号を化学信号に変換する新しい膜タンパク)

脳の機能や筋肉の収縮など多くの生体現象は細胞膜を介する電位差が信号として使われており、膜電位変化を介した細胞内への信号伝 達はイオンチャネル等の膜タンパクの働きに支えられている。今回我々は、脊椎動物の祖先と関連が深い尾索動物ホヤのゲノムから、イオンチャネルとは異なる 仕組みで電気的情報を細胞内へ伝達する新しいタンパク質を発見した。VSPと名付けられたこの分子は、イオンチャネルと同様な電位センサー構造を持つ一方 で、イオンが通る孔の構造の代わりにイノシトールリン脂質を脱リン酸化する酵素をもつ。我々は、VSPが膜電位に依存して酵素活性を変化させ、イオンの動 きなしに電気信号を細胞内の化学信号に変換することを明らかにした。この遺伝子はホヤからヒトに到る脊索動物に保存され、発生過程の細胞やがん細胞などに 発現しており、細胞増殖や細胞分化過程などでの膜電位変化によるシグナル伝達に関わる可能性がある(Nature, 435, 1239-1243, 2005)。
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図の説明

膜電位変化による情報伝達は、今まで電位依存性イオンチャネルによる、イオンの移動を介して行われる経路のみが知られていたが、VSPは、イ オンの移動なしで、膜電位変化を直接酵素活性の制御に用いる、全く新しい情報伝達分子である。