025.乳幼児期の視覚体験がその後の色彩感覚に決定的な影響を与える

眼に入る光の波長成分が大きく変化しても、対象物の「色」は同じように知覚される。「色」が網膜から大脳皮質に至る神経結合の連鎖によって創り出されているためである。
生後間もないサルを、1年間、単色光照明だけで飼育した。このとき、網膜にある3種類の錘状体を全て賦活できるように、単色光の波長を1分間毎にランダムに変化させた。その後、単色光照明で育ったサルの色覚を検査したところ、色の類似性判断と恒常性に障害があることが明らかになった。単色光サルは見本の色によく似た対象物を選ぶという類似性判断の課題では、正常サルとは極めて異なった結果が得られた。この結果は、単色光サルが、正常サルとは異質な方法で色を分類していることを示している。さらに、いくつかの色紙の中から一つの色紙を選択する課題の結果は、照明条件によって大きく変化し、単色光サルに「色の恒常性」が備わっていないことが明らかになった。これは、色覚が経験によって獲得されることを示している(Current Biology14: 1267-1271, 2004)。今後、単色光サルの神経活動を調べることによって、「色の恒常性」を実現している神経回路網の構造と働きを明らかにできると期待される。
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図の説明

(A):実験に用いた視覚刺激の例。モンドリアン図形(幾何学的な抽象図形)に埋め込んだ赤と黒の正方形。(B):実験に用いた20種類のマンセル色。各々の色は、1~10の数字と記号(赤はR、黄赤はYR、黄はYなど)で示されている。各色は黒色と対にして呈示した。赤(5R)の正方形があるときには赤の正方形、無いときには黒の正方形に触れると、報酬(グレープジュース)を得ることができる。(C)-(F):太陽光に近似した波長成分で照明したときの結果。赤に似た色に対しても反応している。(G)-(J):長波長成分を増やして照明したときの結果。色を見せずに育てたサルは、赤(5R)ではなく黄(5Y)を選択した。なお、実験は、20種類の色紙にたいして、それぞれ10回ずつ行った。反応の回数を円の直径で示している。たとえば、赤(5R)を 10回中10回とも触れると、大きな円が5Rの位置に描かれる。一度も触れることがなかった色の位置は空欄になっている。