156.リズムに合わせて運動するための小脳の神経活動を解明

私たちは音楽を聴きながら、リズムに乗って踊ったり手拍子をしたりすることができます。リズムに乗るためには音を聞いてから体を動かすのでは間に合わず、リズムを予測して運動する必要があります。こうした予測的な制御に小脳が関係する事はよく知られていますが、小脳の神経活動が具体的にどのようなものなのか、よくわかっていませんでした。

今回の研究では、周期的に現れる視覚刺激に合わせて目を動かすように訓練したサルを用いて、小脳の出力部である歯状核から単一ニューロン活動を記録しました。その結果、小脳歯状核ニューロンには、①次に行う運動のタイミングとよく相関した活動を示し、運動の制御に直接かかわっているもの、②運動そのものよりも周期的に現れる標的のタイミングに一致した活動を示し、標的の内部モデルを表象していると考えられるもの、③標的と運動の時間ずれ(エラー)とよく相関した活動を示し、同期運動の時間誤差を検出することに関与するもの、の3種類があることがわかりました。小脳はこれらの情報を大脳の異なる領野に送り、リズムに合わせた運動のタイミング調節を行なっていると考えられます。

Neural signals regulating motor synchronization in the primate deep cerebellar nuclei.
Okada, KI. Takeya, R. & Tanaka, M.
Nature Communications : 13, https://doi.org/10.1038/s41467-022-30246-2, 2022.

 

A.リズム同期課題の模式図。モニターの左右に四角い目印を表示し、そこに標的を一定間隔で交互に呈示し、これに同期して眼を動かすようにサルを訓練しました。これには標的のタイミングを予測し、予測に基づいて眼を動かし、予測と運動の時間ズレを検出して予測を修正する必要があり、小脳が関与していると考えられます。B. 小脳核のニューロン活動。クラスター解析により、記録されたニューロン活動を3種類に分類しました。①のタイプは、特定方向への運動の前に活動し、運動の制御に直接かかわっていると考えられました。②のタイプは、方向に関係なく運動の前に活動し、標的の内部モデルを表象していると考えられました。③のタイプは、運動の直後に活動し、同期運動の時間誤差を検出することに関与すると考えられました。小脳の3種類のニューロン群は、それぞれ別の大脳領野に情報を送って同期運動を制御していると考えられます。