153. 脳領域横断的な同期活動の変化が記憶を支える

脳では記憶の情報は「同時に活動する比較的少数の神経細胞集団」であるアンサンブルの活動として表現されています。また、脳は機能的に異なる多数の領域で構成されていますが、ある1つの記憶を担うアンサンブルが様々な脳領域に存在することが知られています。これは1つの記憶に関わる情報が様々な脳領域で並列的に処理されていることを示唆していますが、それらの情報がどのように統合されるのかは不明でした。

この点を明らかにするため、本研究ではラットにおける音と嫌悪刺激の連合記憶をモデルとして用い、この課題に関与する扁桃体、大脳皮質前頭前野、海馬の3つの脳領域から同時に多数の神経細胞の活動を記録しました。その結果、記憶の獲得やその後の定着によって、異なる領域に存在するアンサンブルの活動が一過的な脳波の高周波数オシレーションを介して同期するようになることを発見しました。一方、記憶を担うアンサンブルそのものは記憶の獲得前から複数の脳領域に存在していました。

これらの結果は、脳領域横断的なネットワークが新たに形成されることで個々のアンサンブルのもつ情報が適切に統合されるようになり、それぞれのアンサンブルのもつ意味が変化することが記憶の形成に重要な役割を果たしていることを示唆しています。

De novo inter-regional coactivations of preconfigured local ensembles support memory. Miyawaki, H., Mizuseki, K. Nature Communications 13: 1272, 2022.

 

本研究結果の模式図。扁桃体―前頭前野のアンサンブルの同期活動は記憶の獲得時に生じ、海馬―前頭前野の同期活動はその後の睡眠中に見られるようになることが明らかになりました。また、これらの同期活動は海馬のsharp wave ripples (SWRs)、扁桃体のhigh frequency oscillations (HFOs)、前頭前野のcortical ripples (cRipples)といった脳波上の一過的な高周波数オシレーションの際に特に強く生じていました。さらに、これらの脳領域横断的な同期活動を担うアンサンブルは扁桃体や前頭前野では記憶の獲得前から存在することを見出しました。