131. 発達に伴うKCC2の脱リン酸化がGABAによる抑制性伝達形成および生存に必須である

脳内の主要な抑制性伝達物質であるGABAは発達期には興奮性伝達物質として働き、細胞増殖、神経細胞の移動、神経回路形成などにおいて重要な役割を果たしています。GABAが興奮性であるか抑制性であるかは細胞内クロライドイオン濃度により決定され、クロライド濃度が高いと興奮性に働き、低いと抑制性に働きます。発達に伴いクロライドイオンを細胞外にくみ出すカリウムークロライド共役担体(KCC2)の発現量が増加することにより、GABA作用は興奮性から抑制性に変化します。一方でKCC2の機能はリン酸化による制御を受けており、KCC2が機能し始める時期に一致して、KCC2の906番目(Thr906)と1007番目(Thr1007)のスレオニン残基の脱リン酸化がおこることを我々は報告してきました。本研究ではリン酸化によるKCC2機能制御の役割について個体レベルで明らかにするために、Thr906とThr1007をグルタミン酸に置換し、この部位のリン酸化状態を模倣し、発達に伴う脱リン酸化を妨げた遺伝子改変マウス(Kcc2E/Eマウス)を作製し解析を行いました。Kcc2E/Eマウスは生後10時間前後で死亡しました。KCC2のクロライドイオンの細胞外へのくみ出し能力が低下しており、痛覚および接触刺激によりてんかん発作が認められ、死亡前には自発発作の頻度の増加がみられました。脊髄第4頸神経より記録される自発性の呼吸リズムがみられず、第2腰神経より記録される歩行リズムが乱れていました。また、スパイン形成は正常に認められましたが、中隔、視床下部、海馬、大脳皮質の神経分布に異常がみられました。以上の結果から、幼若期にはKCC2のThr906とThr1007のスレオニン残基がリン酸化されているため機能が抑制されており、発達に伴い脱リン酸化されることでKCC2が機能し始め、GABAによる抑制性神経伝達が形成されることが明らかになりました。よって、発達期にKCC2のThr906とThr1007のリン酸化が適切に制御されることが、抑制性GABA伝達の形成に必須であり、神経発達および生存に重要であることがわかりました。本論文は掲載号の表紙を飾り、Editorial Boardにより注目論文に選定され、「FOCUS」に論文の紹介およびコメントが掲載されました。

 

Miho Watanabe#, Jinwei Zhang#, M. Shahid Mansuri#, Jingjing Duan, Jason K. Karimy, Eric Delpire, Seth L. Alper, Richard P. Lifton, Atsuo Fukuda*, and Kristopher T. Kahle*. Developmentally regulated KCC2 phosphorylation is essential for dynamic GABA-mediated inhibition and survival. Science Signaling. 12(603): eaaw9315, 2019.

# These authors contributed equally. *corresponding author

 

スクリーンショット 2019-10-31 7.46.59

 

 

図1右

 

<図の説明>

幼若期にはKCC2の906番目(Thr906)と1007番目(Thr1007)のスレオニン残基がリン酸化されているためKCC2の機能が抑制されており、発達に伴い脱リン酸化されることでKCC2が機能し始め、GABAによる抑制性神経伝達が形成される。本論文は掲載号の表紙を飾りました。