123. 味を舌から脳へ伝える分子機構の解明 〜活動電位依存性ATPチャネルCALHM1/CALHM3の発見〜

 舌に存在する味蕾が化学センサーとして働き、ヒトを含む多くの哺乳類は甘味・苦味・うま味・酸味・塩味の5基本味を認識します。そのうち甘味・苦味・うま味を検出するII型味蕾細胞はイオンチャネルを使って活動電位依存的にATPを放出して求心性味神経へと神経伝達を行いますが、このATPチャネルの分子実体は長らく謎でした。私たちは先行研究(Nature, 2013)で必須分子Calcium homeostasis modulator 1 (CALHM1)を発見しましたが、CALHM1によるホモ6量体チャネルは素早い活動電位に対しては活性化が遅すぎるため、別のサブユニットの存在が示唆されていました。本研究で、CALHM1とそのホモログCALHM3によって作られるヘテロ6量体CALHM1/CALHM3が活動電位で素早く活性化するATPチャネルとして機能し、II型味蕾細胞からの活動電位依存性ATP放出を担うことで味の認識を可能にしていることを解明しました。活動電位によって起こるATP放出はこれまでシナプス放出のみと考えられていましたが、今回発見した新規電位依存性チャネルCALHM1/CALHM3は活性化がきわめて速く(τ ~ 10ミリ秒)、現在唯一の活動電位依存性ATPチャネルです。
 味を舌から脳へと伝えるしくみの解明とともに、イオンチャネルによるプリン作動性神経伝達の分子基盤を初めて明らかにした研究です。

CALHM3 is essential for rapid ion channel-mediated purinergic neurotransmission of GPCR-mediated tastes.
Ma Z#, Taruno A# (共同筆頭著者), Ohmoto M, Jyotaki M, Lim JC, Miyazaki H, Niisato N, Marunaka Y, Lee RJ, Hoff H, Payne R, Demuro A, Parker l, Mitchell C, Henao-Mejia J, Tanis JE, Matsumoto I, Tordoff MG, Foskett JK.
Neuron 98: 547-561, 2018.

サイエンストピックス

活動電位依存性ATPチャネルCALHM1/CALHM3による味覚神経伝達

左:ヘテロ6量体CALHM1/CALHM3は電位依存性非選択性イオンチャネルで, 脱分極による活性化の時定数は10ミリ秒程度である. イオン透過ポアの直径は約14Åと大きく, ATP透過性を有する. また, 細胞外Ca2+, Gd3+, Ruthenium Red, Carbenoxoloneによって阻害される.

右:甘味・苦味・うま味を検出するII型味蕾細胞における細胞内シグナル伝達・神経伝達の機構. CALHM1/CALHM3チャネルが活動電位依存的に神経伝達物質ATPを放出する. GPCR, Gタンパク質共役型受容体; PLCβ2, ホスホリパーゼβ2; DAG, ジアシルグリセロール; InsP3, イノシトールトリスリン酸; Δψ, 受容体ポテンシャル; ATP, アデノシン3リン酸.