112.記憶の手がかり情報は霊長類側頭葉における皮質第5層から第6層への情報処理過程で想起対象へと変換される

大脳皮質は6層からなる層構造を持ち、それぞれの層は独自の細胞種構成と解剖学的結合パターンを持っていることがよく知られています。このことから、各層が異なる機能を分担しながら協調して情報処理にあたっていることが以前より示唆されていました。しかしながら、脳深部から慢性的に記録する際の方法論的な限界のため、霊長類の連合記憶などの高次脳機能については、層構造が果たす役割はほとんど分かっていませんでした。本研究ではサルを被験体とし、従来単一神経細胞の活動測定に用いられてきた微小電極記録法に加え、高磁場磁気共鳴画像法(MRI)と組織切片法を組み合わせることによって、記憶想起課題を遂行中の神経細胞の活動がどの層から記録されているのかを調べました。その結果、大脳内側側頭葉の36野において、記憶に関わる神経細胞が層構造に従って異なる機能を分担していることが分かりました。特に、第5層に存在する神経細胞が連合記憶を符号化する一方で、第6層の神経細胞は想起された情報を出力していました。また、第2層〜4層の神経細胞は想起対象よりも手がかり刺激の情報を保持していました。これらの結果から、霊長類の大脳皮質において第5層から6層へと情報が受け渡される中で想起対象へと情報が変換される情報処理過程が明らかになりました。

Laminar Module Cascade from Layer 5 to 6 Implementing Cue-to-Target Conversion for Object Memory Retrieval in the Primate Temporal Cortex. Kenji W. Koyano, Masaki Takeda, Teppei Matsui, Toshiyuki Hirabayashi, Yohei Ohashi, Yasushi Miyashita. Neuron 92, 2016. DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.neuron.2016.09.024

図1

記憶想起課題遂行中の大脳皮質36野における情報処理。サルは手がかり図形(図では2重丸)から対となる図形(図では星)を想起するよう訓練された。第5層から第6層において記憶の手がかり情報が想起対象へと変換される。図では刺激図形を実際のものより簡略化した。