104. 下行性疼痛抑制経路が脊髄排便中枢を刺激する

 過敏性腸症候群(IBS)のようなストレスによる排便障害や、パーキンソン病における便秘など、中枢神経系が関わる排便障害が大きな問題となっている。しかしながら、詳しい病態が明らかになっておらず、治療法が確立されていない。排便の中枢性の制御は、腰仙髄部にある脊髄排便中枢と脳にある上脊髄排便中枢の二つの中枢によって行わる。これまで我々は、脊髄排便中枢に着目した研究を行ってきた。今回我々は、ノルアドレナリン1)およびドパミン2)を脊髄排便中枢に投与すると、結直腸の運動が亢進することを発見した。この作用は、ノルアドレナリン、ドパミンがそれぞれα1アドレナリン受容体、D2様ドパミン受容体を介して、仙髄副交感神経の節前神経を興奮させることで起こる。

 脊髄において、ノルアドレナリン、ドパミンは痛みの制御に深く関わっている。また、そのほとんどが脳から下行性に投射する軸索に由来するため、下行性疼痛抑制経路と呼ばれている。我々の結果は、この下行性疼痛抑制経路が痛みだけでなく、大腸運動も制御している可能性を示唆している(図)。この経路が立証されれば、IBSにおける排便障害の病態解明につながるものと期待できる。IBSでは大腸における過敏症が起きているので、これによって下行性疼痛抑制経路が過剰に活性化され、消化管運動の異常が起きると考えられる。また、パーキンソン病ではドパミン神経が変性するが、脊髄排便中枢におけるドパミンの減少がパーキンソン病における便秘の原因の一つになり得る。我々はこの研究結果が、中枢神経系が関わる排便障害の病態解明および、新規治療戦略の立案につながると考えている。

1)Naitou K, Shiina T, Kato K, Nakamori H, Sano Y, Shimizu Y. Colokinetic effect of noradrenaline in the spinal defecation center: implication for motility disorders. Sci Rep. 2015. 5:12623. doi: 10.1038/srep12623.

 2)Naitou K, Nakamori H, Shiina T, Ikeda A, Nozue Y, Sano Y, Yokoyama T, Yamamoto Y, Yamada A, Akimoto N, Furue H, Shimizu Y. Stimulation of dopamine D2-like receptors in the lumbosacral defecation centre causes propulsive colorectal contractions in rats. J Physiol. 2016. in press, doi: 10.1113/JP272073.

図(RGB)