102. 電位依存性プロトンチャネルHv1/VSOPは好中球の脱顆粒を抑制する

 電位依存性プロトンチャネルHv1/VSOPは、貪食細胞において、活性酸素を作るNADPHオキシダーゼの活性を補助する分子として知られていました。2006年に当研究室にて分子が発見されてから、分子、細胞、個体レベルにおいて世界的に研究が進んでおり、新しい知見が続々と報告されています。私たちは、今回、プロトンチャネルが、免疫細胞の1種である好中球において、活性酸素を作る酵素や分解酵素を蓄えるアズール顆粒と呼ばれる小胞の分泌を抑制することを発見しました。好中球は、感染防御において第一線で活躍する免疫細胞であり、活性酸素・分解酵素を分泌することで病原菌を殺菌・除去します。過剰な酵素の分泌は炎症を強く誘発し、炎症を原因とする各種疾患を引き起こすことが知られています。好中球を刺激しますと、プロトンチャネルの機能が欠失したマウスの好中球では、アズール顆粒の放出が野生型よりも増え、それに伴い、顆粒から放出される次亜塩素酸を作るミエロパーオキシダーゼや分解酵素エラスターゼの活性が上昇していました。この異常には、少なくとも細胞膜上の膜電位が関与していることが分かりました。個体レベルでは、カンジダ真菌感染後の肺において、炎症が野生型よりも強く現れることが分かりました。これらの結果から、プロトンチャネルは、感染部位に集まった好中球の顆粒の分泌を抑制することで、過度の炎症を防いでいるのではないかと推察されます。

Okochi Y*, Aratani Y, Adissu HA, Miyawaki N, Sasaki M, Suzuki K, Okamura Y*. The voltage-gated proton channel Hv1/VSOP inhibits neutrophil granule release. J Leukoc Biol. 2016 Jan;99(1):7-19. doi: 10.1189/jlb.3HI0814-393R. *Corresponding authors

スライド1