099. 記憶想起の成功は側頭葉におけるサブ領域間トップダウン信号による皮質層間神経回路の活性化が必要である

 大脳側頭葉は物体に関する記憶を司る領域であり、視覚性記憶の記銘や想起に関与するニューロン群の存在が知られている。ところが、従来の研究で用いられた手法は、記憶を記銘・想起する際の個々のニューロンの活動を一つずつ計測するのが一般的であり、こうした手法では側頭葉の複数領域が記憶の記銘・想起時にどのようにして協調的に働いているのか調べることは困難だった。

 本研究では、記憶想起に関わる側頭葉の領域間信号と領域内皮質層間信号の伝播過程を直接調べるために、視覚図形を対として記憶する対連合記憶課題をサルに課し、物体の視覚性情報の記憶を想起する際のニューロンの活動を側頭葉のTE野および36野から同時に計測、解析した。TE野の記録においては、多点リニア電極を用いて異なる皮質層からの同時記録を行った。こうした手法を用いて、36野のニューロン活動がTE野の何層の活動と協調的に働いているか、またその協調信号が他の層に与える影響を解析した。

 サルが対となる視覚図形を想起している際に、個々の36野のニューロンはTE野の深層もしくは浅層のいずれかにおける局所フィールド電位と協調的に活動をしていることが明らかになった(図)。また、TE野深層の協調活動は浅層に皮質層間信号を伝播していた。このA36‐TE野深層‐TE野浅層の信号経路は、サルが正しく視覚性情報の記憶を思い出した時のみに伝播され、思いだしに失敗した時は伝播されなかった。これらの結果から、霊長類の側頭葉において、記憶の想起を司る領域間、領域内の脳内信号の伝播原理が初めて明らかになった。

Takeda, M. et. al. Top-down regulation of laminar circuit via inter-area signal for successful object memory recall in monkey temporal cortex. 2015. Neuron. 86, 840-852. http://dx.doi.org/10.1016/j.neuron.2015.03.047.

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