日本生理学雑誌 第72巻 12号

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表紙の説明

第87 回日本生理学会大会(盛岡)
演題番号:3P-K-08
演題:“A new therapeutic approach for severe brain damages utilizing Iba1+/NG2+macrophage-like cells expressing a variety of neuroprotective factors”
「NG2 を発現するマクロファージを利用した新たな重症脳疾患治療の試み」
演者:田中潤也1, 2,杉本香奈1, 2,高橋寿明1, 2,矢野元1, 2
所属:1 愛媛大学プロテオ医学研究センター難治性神経疾患分子制御部門,愛媛大学医学系研究科分子細胞生理学

ラットの実験的脳梗塞モデルである中大脳動脈一過性閉塞実験では,脳梗塞巣に大量のマクロファージ様細胞が浸潤する(Matsumoto et al. J Cereb Blood Flow Metab(2008)28,149-163).このマクロファージ様細胞は,マクロファージマーカーのIba1 に加えて,オリゴデンドロサイト前駆細胞のマーカーであるNG2 を発現することが特徴で,我々はBINCs(Brain Iba1+/NG2+Cells)と称している.BINCs は,壊死組織を貪食するほか,IGF-1 やHGFなどの神経保護的因子を産生する(Smirkin et al. J Cereb Blood Flow Metab (2010) 30, 603-615).
A およびB:A は,ラット脳梗塞実験の肉眼所見.B は,壊死脱落した脳組織の体積を示すもの.中大脳動脈一過性閉塞による脳梗塞では,その灌流領域である大脳皮質と線状体が壊死する(AおよびB のControl). BINCs は脳梗塞巣で激しく増殖するため,脳梗塞発症後,抗癌剤の5FU を腹腔内に投与すると増殖するBINCs を除去できるが,この操作により梗塞巣は著しく拡大,ラットの個体死が頻発する(5FU).このとき,梗塞巣周辺で形成されるアストログリオーシスの形成は顕著に遅延する.5FU 投与により拡大した脳梗塞巣にBINCs を移植すると,BINCs は梗塞巣内で激しく増殖,移植2 週間後には,壊死した大脳皮質が再びふくらみ,一見脳梗塞巣が縮小したように見える(5FU+BINCs).
C:写真左(Iba1)は移植BINCs の分布をIba1 の免疫染色でみたもの.移植BINCs は壊死組織となった大脳皮質(Cortex)で増殖し,隣接する大脳基底核(Striatum)でのアストログリオーシス形成を促進する(右写真,アストロサイトのマーカーであるGFAP).BINCsの移植を行うと,梗塞巣の拡大は防がれ,ラットの個体死は完全に抑制された.