日本生理学雑誌 第73巻 1号

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表紙の説明

第87 回日本生理学会大会(盛岡)
演題番号:2P-J-05
演題:「破骨細胞の初期Ca-sensing 応答のシグナリング機構」
“Signaling pathways involved in the early phase of extracellular Ca2+-sensing responses in osteoclasts:endocytosis and inhibition of the plasma membrane vacuolar H+-ATPase”
演者:酒井啓1,森浦芳枝1,納富拓也1,川脇順子2,大西景子1,久野みゆき1
所属:1)大阪市立大学大学院医学研究科・分子細胞生理学,2)中央研究室
破骨細胞の役割は骨基質を溶かすことである.骨表面に付着し,骨に面する側に発達した襞状の細胞膜(ruffled membrane)から酸と蛋白分解酵素を分泌してハイドロキシアパタイト・コラーゲンを主成分とする骨を溶解する.その結果,骨吸収窩(resorption pit)には骨から溶け出したCa が蓄積する.この高濃度の細胞外Ca がネガティブフィードバックシグナルとして破骨細胞機能を抑制することは古くから知られ,破骨細胞にはCa-sensing 機構が備わっていると考えられてきた.私達はホールセルクランプ法を用い,細胞膜に発現し酸分泌の主体となる空胞型プロトンポンプ(V-ATPase)によるH+電流がCa 刺激に応答して抑制されることを見出していたが,そのメカニズムはわからなかった.細胞面積の指標となる膜容量(Cm)をV-ATPase 電流と同時に測定することによって,Ca に対する初期応答としてV-ATPase 活性の低下とダイナミン依存性エンドサイトーシスが同時に起こることが明らかになった.そのシグナリング過程にはホスホリパーゼC,細胞内Ca 動態およびカルモジュリンが関与していた.V-ATPase は細胞内小胞(lysozome,endosome)からエキソサイトーシスによって細胞膜へとリクルートされる.逆に,エンドサイトーシスによる細胞内への取り込みは酸分泌能を減少させ骨吸収を抑制するメカニズムとなる.今回の結果は,破骨細胞の細胞膜V-ATPase の活性制御に膜運動が密接に関わることを示している(Sakai,H. et al., Am. J. Physiol., in press).