- 山崎茂明 (Yamazaki Shigeaki)
- 東京慈恵会医科大学医学情報センター
- 〒105東京都港区西新橋3-25-8
- 電話番号:03-3433-1111 / FAX:03-3435-1922
- キーワード:インパクトファクター、引用指標、生理学、雑誌評価
1.はじめに
雑誌の評価尺度としてインパクトファクターがある。Science Citation Index(SCI)で知られている米国ISI< 社が製作しているJournal Citation Reports(JCR) は、インパクトファクターを含めさまざまな引用データにもとづいた指標を提供している。1975年に創刊され、現在では約4600誌の引用データをもとに制作されており、1994年版からCD-ROMでも刊行されるようになった。インパクトファクターの意義については、論争や否定的な意見も出ているが、一方でどこまで利用できるのか具体的に検討していくことが大切である。日鱒カ理学会か発行している英文誌であるJapanese Journal of Physiologyと生理学領域の主要誌を対象にして、JCRから得られる引用指標を用いてその特徴をあきらかしたい。また、Japanese Journal of Physiologyをどのような方向性で編集すべきかの討議資料になるだろう。
最近の関連文献としては、インパクトファクターを業績評価ツールとして利用することにたいして、それは雑誌を評価する方法であり、論文や著者の評価にまで拡大することへの疑問がSeglen注1)により指摘されている。引用索引やJCRの製作を行なってきたGarfield注2)自身も、インパクトファクターの利用上の注意事項をまとめている。また、筆者にはこれまで、薬学領域を対象にした解説注3)や、Japanese Journal of Physiologyを含めた国内欧文誌のありかたを検討した論文注4)、さらに生命科学の15分野を対象に主要誌のインパクトファクター変化を図示したものなどがある注5)
注1) | Seglen PO : Why the impact factor of journals should not be used for evaluating research. BMJ 314 : 498-502, 1997. |
注2) | Garfield E : How can impact factor be improved? BMJ 313 : 411-413, 1996. |
注3) | 山崎茂明: 医学薬学における研究評価.= ファルマシア=32 : 187-192, 1996. |
注4) | 山崎茂明、張海斉: 生命科学における国内欧文誌の国際性. 情報管理39 : 669-675, 1996.(日本生理学雑誌59:98-104,1997に転載) |
注5) | 山崎茂明: 生命科学論文投稿ガイド. 東京、中外医学社、1996. |
2.インパクトファクター値の変化
世界の主要な生理学会雑誌を中心にして、1979年から1995年までのインパクトファクター値の変化を4年毎に示した(図1)。レビュー誌は除外し、1995年のインパクトファクター値の高い順に9誌をJournal of General PhysiologyからJapanese Journal of Physiologyまで並べている。各雑誌が、この16年間にどのような値で推移しているかが示されている。全体的な特色として、1990年代になり多くの生理学雑誌がそのインパクトファクター値を落としていることである。分野として見ると、神経科学や分子生物学的アプローチの興隆により、伝統的な生理学領域がインパクトファクター値からみて低迷している。
Journal of General Physiologyは1991年にJournal of Physiologyにトップの座を譲ったが、生理学のなかで最も高いインパクトファクター値を維持している。生理学の代表誌であるJPは、1991年まで上昇傾向を示してきたが、この分野の落ち込みをそのまま反映しているといえる。American Journal of Physiologyは、多くの生理学雑誌がやや下降傾向にあるなかで、健闘している。Acta Physiologica ScandinavicaやJournal of Physiology Parisの2誌は、インパクトファクター値の下降が顕著である。Japanese Journal of Physiologyは、一時期インパクトファクター値が1.0近くまで上昇したが、1980年代後半から減少に転じている。
雑誌の評価にあたって、引用された絶対数で評価したのでは、多くの論文を掲載している大規模雑誌が、少数の論文しか載せていない小規模誌よりも有利になる。また、同じように伝統ある古い雑誌のほうが、創刊間もない若い雑誌よりも有利になる。そこで、出版論文数の規模による影響を取り除いた指標が要請された。そこで考案された指標がインパクトファクターであり、ある雑誌が引用された回数(被引用数)をその雑誌の出版論文数で割った値になる。分かりやすい表現にすれば、”ある雑誌が1論文あたりでは何回引用されているか”を示している。さらに、実際のインパクトファクター値の計算にあたっては、最近2年の出版論文数とそれらへの総引用数に絞っている。例えば、1995年のインパクトファクター値は、1994年と1993年の2年間分の出版論文にたいする総引用数をその出版論文数で割っている。つまり、最近2年間の出版論文の影響度を引用数をもとに係数化したものである。なお、2年間の累積値をとる理由は、単年度による極端な変動を修正するためである。
1991年から1995年の5年間の変化を詳細にみるために、生理学の2つのレビュー誌を含めて作表した(表1)。全体にやや下降傾向にあることがわかる。Japanese Journal of Physiologyは、1994年に大きくインパクトファクター値を下げ、さらに1995年には0.448まで落ち込んでいる。すでに、述べたように、インパクトファクター値は、前2年間の引用データと出版論文数により算出されている。1994年に、岡崎で開催された”SEIRIKEN”の19回会議記録が掲載されたことで、ソース論文数が101と、前年の1993年の70編から、44パーセントの論文数の上昇があった。会議録の論文は、通常の研究論文よりも引用されるチャンスは一般的に少ないので、1995年のインパクトファクター値を下げる要因になっている。しかし、1994年のインパクトファクター値の下降の要因にはなっていないだけに、この落ち込みが今後どのように変化するか注意する必要があろう。
表1 主要生理学雑誌のインパクトファクター変化(1991-1995) |
|||||
誌名 | 1991 | 1992 | 1993 | 1994 | 1995 |
Physiol Rev | 19.123 | 21.452 | 14.016 | 16.286 | 20.545 |
Annu Rev Physiol | 10.894< | 12.563 | 11.568 | 12.173 | 12.059 |
J Gen Physiol | 5.111 | 4.516 | 4.078 | 4.922 | 4.548 |
J Physiol | 5.231< | 4.843 | 4.795 | 4.741 | 4.327 |
J Neurophysiol | 3.770 | 3.874 | 4.134 | 4.001 | 3.578 |
Am J Physiol | 3.259 | 3.269 | 3.139 | 3.276 | 3.244 |
J Cell Physiol | 3.220 | 3.020 | 2.898 | 3.096 | 3.049 |
Pflug Arch | 3.135 | 3.115 | 2.715 | 2.921 | 2.646 |
Acta Physiol Scand | 1.504 | 1.391 | 1.621 | 1.745 | 1.496 |
J Physiol Paris | 1.143 | 0.864 | 0.491 | 1.029 | 1.062 |
Jpn J Physiol | 0.794 | 0.939 | 0.729 | 0.458 | 0.448 |
3.雑誌半減期(half-life)からみた特色
現在からさかのぼって全引用文献数の累積値が50パーセントになる年を雑誌の半減期(half-life)という。この半減期には、ある雑誌が引用している文献の半減期(citing half-life)と、ある雑誌が引用されている文献の半減期(cited half-life)の2種類がある。一般的に、基礎医学では臨床医学よりも雑誌半減期が長い傾向にある。ただし、ホットな情報交換がおこなわれているような新しい分野では、雑誌半減期が短くなっている。
表2 Half-lifeからみた主要生理学雑誌の特徴 | ||||
誌名(創刊年) |
’95 Cited Half-life |
’95 Citing Half-life |
||
Am J Physiol(1898) |
5.8 |
6.0 |
||
Annu Rev Physiol(1939) |
6.0 |
4.7 |
||
J Cell Physiol(1932) |
6.5 |
5.8 |
||
J Neurophysiol(1938) |
7.3 |
6.9 |
||
Physiol Rev(1921) |
8.1 |
7.4 |
||
Pflug Arch(1868) |
8.1 |
5.5 |
||
J Physiol(1878) |
8.6 |
5.8 |
||
Jpn J Physiol(1950) |
9.4 |
>10.0 |
||
J Gen Physiol(1918) |
9.5 |
6.4 |
||
Acta Physiol Scand(1940) |
>10.0 |
8.1 |
||
J Physiol Paris(1899) |
>10.0 |
3.9 |
生理学のレビュー誌を含め、1995年を対象にして主要な雑誌の半減期をcited half-lifeとciting half-lifeとにわけて作表した(表2)。Journal of General Physiology、Journal of Physiology、Pflugers Archivの3誌は、citedとcitingの差がそれぞれ2.6年以上あり、citingの方が若いという同様の傾向を示している。伝統ある3誌の文献は過去にさかのぼって引用されており、一方それぞれの雑誌が文献表の中で引用している文献は2.6年以上新しいものになっていた。生理学領域のなかで、新しいトピックを指向しているAmerican Journal of PhysiologyとJournal of Cellular Physiologyは、新しい文献がより多く引用されておりcited half-lifeの年齢が若い。
表3 Half-lifeからみたJJPの特徴 | ||||
年 |
Cited Half-life |
Citing Half-life |
||
95 |
9.4 |
>10.0 |
||
94 |
9.5 |
6.1 |
||
93 |
9.2 |
7.7 |
||
92 |
7.7 |
9.4 |
||
91 |
9.4 |
9.6 |
Japanese Journal of Physiologyは、いずれの半減期も長いという特色が顕著であった。Physiological Reviewsのような、過去の文献を丹念にチェックしたアカデミックレビューを掲載している雑誌でも、そのciting half-lifeは7.4年であり、Japanese Journal of Physiologyより若い。この傾向が1995年だけのものなのか、一般的なJapanese Journal of Physiologyの特徴なのかを確認するために、過去5年間の半減期の変化を作表してみた(表3)。岡崎で開催された”SEIRIKEN”記録が掲載された1994年のciting half-lifeが、6.1歳であった以外は、半減期が長く新鮮さに欠けており、引用している文献の古さが気になる。時流にかかわらず研究がなされているともいえるが、その他の生理学雑誌と比較してもその半減期(citing half-life)は明らかに長いだけに、このデータはJapanese Journal of Physiologyの問題点を示したものであろう。
4、被引用文献の年齢パターン
生理学の主要な4.原著論文誌の引用のされかたを、1995年を例にその出版年分布でみてみよう(図2)。さらにJapanese Journal of Physiologyについては、1995年の引用文献と被引用文献を、絶対数でなく全体の引用数に占める百分比で示した(図3)。
American Journal of PhysiologyとJournal of Physiologyは3年前の1992年に引用される文献の頂きがきていたが、Journal of Neurophysiologyは2年前の1993年が最多であった。一方、Journal of General Physiologyは5年前の1990年の文献が最も多く引用されていた。また、American Journal of PhysiologyとJournal of Physiologyという米国と英国の代撫を比較すると、グラフのパターンが異なっていることに気づく。American Journal of Physiologyは新しい文献が中心に引用されており、Journal of PhysiologyはAmerican Journal of Physiologyと頂きを同じくしていたが、カーブがゆるやかで新しい文献に集中していない。このあたりに、この二誌の特色が反映されいる。Japanese Journal of Physiologyの引用文献と被引用文献の百分比分布をみると、1989年から1995年までの新しい部分で、1992年を除きすべて引用された文献の比率が引用しているものよりも高い。Japanese Journal of Physiologyの引用リストにあげられた文献の出版年が古い傾向にあることを示している。
5.Japanese Journal of Physiologyの引用・被引用誌の特色とインパクトファクター
一般的に、研究者が文献を引用する際、一流誌の文献を引用する傾向にある。そこで、よく引用している雑誌グループと引用されている雑誌グループとを比較すると、一流誌ほどグループ間のインパクトファクター値に差がないが、一流誌でないものほどその差が大きくなる。そこで、Japanese Journal of Physiologyのciting誌とcited誌について、上位10誌の平均インパクトファクター値を算出し、上位10誌をリストした(表4)。明らかに、二つのグループ間のインパクトファクター値に大きな差が存在していた。また、引用している雑誌の3位には循環器病学の研究誌であるCirculation Researchが入り、5位にBrain Researchが入っていた。一方、Japanese Journal of Physiologyをよく引用している雑誌としては、神経学の雑誌が多く見られる。上位の 1、2 位は、同じであるが、引用しているグループとされているグループでは、主題領域に違いが見られた。神経学領域の雑誌がJapanese Journal of Physiologyをよく引用しており、推測であるが日本の神経科学研究者による引用ではないだろうか。
表4 JJPの引用誌と被引用誌の10位による平均Impact Factor値比較(1995)4JJP10Impact Factor(1995) | |||||||
Citing Journal | Cited journal | ||||||
誌名 |
Impact Factor |
順位 |
誌名 |
Impact Factor |
|||
Am J Physiol |
3.244 |
1 |
Am J Physiol |
3.244 |
|||
J Physiol |
4.327 |
2 |
J Physiol |
4.327 |
|||
Circ Res |
8.002 |
3 |
Prog Neurobiol |
6.184 |
|||
J Appl Physiol |
1.947 |
4 |
Neurosci Res |
2.165 |
|||
Brain Res |
2.687 |
5 |
Brain Res |
2.684 |
|||
Nature |
27.074 |
6 |
Gen Pharmacol |
0.871 |
|||
J Biol Chem |
7.385 |
7 |
Physiol Rev |
20.545 |
|||
PNAS |
10.52 |
8 |
J Appl Physiol |
1.947 |
|||
Pflug Arch Eur J |
2.646 |
9 |
J Autonom Nerv Sy |
1.592 |
|||
Science |
21.911 |
10 |
Neuroscience, etc |
2.658 |
|||
上位10誌平均IF値10IF |
8.974 |
上位10誌平均IF値10IF |
4.622 |
6.インパクトファクターの課題
インパクトファクターによるランキングで注意することは、原著論文誌などに比較してレビュー誌が上位を占めることである。レビュー誌は少数の論文を掲載しているが、その性格からも頻繁に引用され、被引用数の絶対量は少ないものの、インパクトファクターは高いランクになる。また、JCRを作成するためのソースであるISI社で製作されている引用索引は、アメリカ合衆国の雑誌を中心に収載しているため、引用評価の際アメリカ誌に有利になる傾向がある。また、引用の問題点についても、理解しておく必要があろう。多くの人々に“読まれている“ことと“引用されている“ことは、必ずしも一致していない。Scientific American誌のような一般科学雑誌は、多くの人々に読まれているけれど引用はあまりされない。同じように、教科書やハンドブックのような出版物は、頻繁に利用されていても引用されることは少ない。さらに、引用数が多いことは流行を反映するといえるが、必ずしも重要さを反映するものではない。
7、おわりに
インパクトファクターだけでなく、半減期からみた特色、引用文献の年齢パターンなど、いくつかの引用指標をもとにJapanese Journal of Physiologyの分析を行なった。自誌の引用を学会として呼びかけている例もあるが、引用指標は人為的にコントロールするものではない。自誌引用を除外したインパクトファクター値も算出可能であり、必然性のない自誌引用はおかしなものである。雑誌が記録のためだけのでなく、読者に伝えることを目指したメディアとして再生させることが求められている。インパクトファクターは有益な指標であるが、一方で過度な対応は注意すべきである。
Japanese Journal of Physiology
文献
- Seglen PO : Why the impact factor of journals should not be used for evaluating research. BMJ 314 : 498-502, 1997.
- Garfield E : How can impact factor be improved? BMJ 313 : 411-413, 1996.
- 山崎茂明: 医学薬学における研究評価. ファルマシア 32 : 187-192, 1996.
- 山崎茂明、張海斉: 生命科学における国内欧文誌の国際性. 情報管理 39 : 669-675, 1996.(日本生理学雑誌59:98-104,1997に転載)
-
山崎茂明: 生命科学論文投稿ガイド. 東京、中外医学社、1996.