JJPのImpact Factor:JJPを良くするために (菅 弘之)

岡山大学医学部生理学第二講座: 菅 弘之

最近,英文学術雑誌の格付けにはもちろんのこと,医学部教授候補や,研究機関の業績評価にも,関係論文の掲載雑誌のImpact factor(衝撃係数,以下IFと略記)を用いることが多くなっています.他方IFはあくまで雑誌の評価係数であって,論文の評価はCitations(被引用回数)を用いるべきであって、IFの一人歩きに慎重である必要性も認識されています.このようなことを背景に,IFに関する書籍や論文が良く目に止まります(文献1 – 5).私も自分の医学部が発刊する歴史ある英文誌Acta Medica OkayamaのIFの分析と考察をして見たこともあります(文献6 – 7).

平成8年末のJpn J Physiol編集委員会において, JJPのIFが1992年の0.9台をピークに,その後徐々に低下して,残念ながらとうとう1995年の0.4台にまでなったと金子章道編集委員長から報告がありました.委員会での討論の後,以前にも私が編集委員会の資料としてJJPのIFについて調べた経緯もあり,日生誌の編集委員長を兼任されている金子先生からJJPのIFを少しでも改善するために,日生誌へこのような題での寄稿を依頼されました.

雑誌毎のIFの値は、米国のISIのScience Citation Index®(SCI)の年度末サマリーであるJournal Citation Report®(JCR)に公表されています.特定雑誌の当該年のIFの計算方式は、IF =(特定雑誌の前年掲載論文の当該年内被引用回数+特定雑誌の前々年掲載論文の当該年内被引用回数)/(特定雑誌の前年掲載論文数+特定雑誌の前々年掲載論文数)です.分子の被引用回数は全ての英文雑誌への引用です.たとえばJJPに関しての資料を元に私が作成した表1の1991年のIFの場合を例にとれば、その前年(1990年)、前々年(1989年)にJJPに掲載された論文数が、それぞれ75篇(表1の?)、85篇(表1の?)で計160篇(表1の?=?+?)であり、これらの論文が1991年内に世界のあらゆる英文学術雑誌へ引用された被引用回数が、1990年JJP掲載論文については46回(表1の?)、1989年JJP掲載論文について81回(表1の?)で、計127回(表1の?)となります.そこで、この1991年内の合計被引用回数127(たったの127回、この少なさが問題なのです)を、1990,1989年の2年間のJJP掲載論文総数160で除した商である0.794が1991年のJJPのIFになります.すなわち、(46+81)/(75+85)= 127/160 = 0.794です.同様に、1992年は、(54 + 84)/(72 + 75) = 0.939となるわけです.このようにして求められたJJPのIFは,確かに1992年の1に近い値をピークに,徐々に低下してきて,今や1995年の0.45にまで低下しているのが分かります.1996年のデータは未発表です.

IFが1というのは、定義からして,一つの論文が掲載された翌年,翌々年をならして年平均1回引用されていることです.IFが1以下と言うことは,論文発表後2年間に2回以下しか引用されていないことなのです.このようなJJPのIFの値が大きいか小さいかは、有名な雑誌のものと比較すれば一目瞭然です.手元にある1992年の資料を見てますと、Natureは46580/2104=22.14、Scienceは36315/1732=20.97、J Clin Investは9522/1135=8.39、J Physiol (London)は4388/906=4.84,Amer J Physiolは13978/4276=3.27,私の関係する循環系のCirculationは10026/1178=8.51、Circ Resは3461/678=5.11、などで、採択率が低い国際的有名誌がいかにIFが高いかが判ります.

では,なぜJJPのIFが下がり続けているのでしょうか?表1の?,?,IF= ?/?を見比べますと,IFの低下がほぼ?の増加と?の減少とに依ることが分かります.論文掲載数の割には,被引用回数の増加が伴っていない訳です.投稿論文の却下率は過去の20 %前後から最近では少し厳しくなって30 – 35 %ですから,査読が甘くなったとも思えません.海外からの論文が増えてきたのは事実ですが,程度の低い論文は却下されていますので,それらがIF低下の原因では無いと思います.

IFを上げるようにするのにはどうしたら良いでしょうか.その一つの手段として、なるべく内容の良い論文を投稿するのが本筋ではありますが、てっとり早くIFを上げるには、掲載された論文を自分で、あるいはお互いに引用するのが良いのではないでしょうか.自分でも引用しない論文は,自分ですら面白がっていないことですから、他人に引用してくれとは厚かましい話しでしょう.まず自分であるいは身内で積極的に引用すべきでしょう.さらに効果的なのは、JJPに掲載された論文を引用して良い論文を書き,少しでも良い雑誌に掲載され,広く読まれるように努力すべきでしょう.IFの高い雑誌ではそんなことを敢えて言わなくても自然にそうなっています.

JJPのIFを上げるには、その定義からも判るように、ただJJP論文を頻回に引用すれば良いのではなく、前年、前々年の掲載論文を引用しなくてはなりません.しかもIFは毎年計算され直すものですから、同じ努力を毎年継続しなければなりません.大変な努力が必要です.さらに,執筆,投稿から,掲載までの期間を極力短くしないと,その間に一年以上を経ると,執筆時に引用していた前々年の掲載論文が,掲載時にはすでに3年前の論文となり,IFの向上に寄与しなくなります.幸い,投稿から掲載までの期間は6 – 7ヶ月程度です.

もちろん,3年以上の古いJJP論文を引用すれば,IFには関係ないですが,全年度被引用回数?が増加し,雑誌の別の評価指数であるCited half life(被引用半減期)が増加します.この指標では,JJP(1994年では9年)はAm J Physiol(同年6年)より上位に来ます.また,IFではないにしても,表1の最右欄のようなIFを全年度に拡張する形の全年度被引用回数?/掲載論文数?を求めてみると,この値はAJP(試算では30)の半分程度となり,IFの場合ほど差が開きません.このことはJJPの論文が古くなっても引用される割合が比較的高く,論文の価値が長続きすることを意味しており,JJPの良さを示していると思えます.他方,掲載された年に直ちに引用されるImmediacy indexはAJPに比べて1/10程度で,発表直後にはそれほど注目されないことを示しています.

JJPの論文がどの程度JJPの論文を引用しているかを実際に各論文の参考文献リストに当たって調べて見ました.表1にその結果をはめ込んであります(?-?).JJPの論文がJJPを引用する回数そのものは,論文当たり平均1回弱(?/?)です.しかし,前年,前々年のJJP掲載論文の引用回数に限れば,3, 4論文に1回程度(?/?)しかありません.これによりJJP内での引用がIFの1/5(?/?)程度に貢献していることになります.IFが高いAJPなどをめくって見ますと,その雑誌に掲載されている論文を頻回に引用しているのに気付きます.前年,前々年のJJP掲載論文の引用回数をJJP1論文当たり平均1回以上にすれば,それだけでIFは必ず1以上に維持できます.

そこで提案ですが,これからはJJPへの投稿論文には,なるべく新しいJJPの論文を少なくとも自分あるいは身内で最低でも1編,出来れば2 – 3編引用するように努力するよう提案したいと思います.ただ掲載されれば良いのだ、学位を取れば良いのだ、歴史と伝統を守って出版が継続すれば良いのだなどという考えではJJPは育たないと思います.育てるにはそれなりの努力が必要です.

以前にJJPと日生誌の編集委員会の合同懇親会があった折り,JJPを良くする方策が話題となりましたが,内容の良い論文はどうしても海外の一流誌に掲載されるよう努力するのが当然である旨の意見がありました.これは我が国の生理学研究の発展に必要なことです.他方,3編に一つでもJJPに回して欲しいとの意見もありました.これはJJPにとって必要なことです.そこで,JJPに掲載された自分や身内の最近の論文を,海外誌に投稿する際に必ず2 – 3編引用し,JJPにも数回に1回程度投稿することを適当に組み合わせることにより,日本の生理学研究もJJPも自己増殖的に発展することが期待できます.

脱稿直前に,金子JJP編集委員長から,編集委員間の互選の結果,小生が今期のJJP編集委員長に決まったとE-mailが届きました.急に大変な責任が肩にかかってきました.皆様のご協力の元にJJPのIFの高揚に尽力してみたいと思います.個人では微力なので, JJP編集委員の皆様方はもちろんのこと,会員の皆様全員のご協力をお願い致します.

謝辞 SCIは購読料が高額のため残念ながら我が医学部図書館にはありませんので,親しくお付き合いをさせていただいている鶴見大学(図書館に上記SCIが完備している)歯学部生理学教室の三枝木泰丈 助教授から必要資料を個人的にいただきました.お礼を申し上げます.また,JJP中のJJP論文引用の調査に当たってくれた教室の竹原祐子 秘書に感謝します.

参考文献

  1. 有馬朗人,金田康正:論文は引用されてこそ価値あり.科学朝日 Aug:52 – 56, 1987
  2. 伊藤正男:[第67回日本生理学会特別講演]生理学会への期待と希望.日本生理誌 52: 307 – 317, 1990
  3. 山崎茂明:海外発表論文から見た日本の医学研究機関の評価.メディカル朝日1: 53 – 58, 1995
  4. 窪田輝蔵:科学を計る.ガーフィールドとインパクトファクター.インターメディカル,東京,1996
  5. 山崎茂明,張 海斉:生命科学における国内英文誌の国際性.日本生理学雑誌59: 98 – 104, 1997
  6. 菅 弘之:Acta Medica Okayamaのインパクトファクター. 岡山医学同窓会報79: 34 – 35, 1995
  7. 菅 弘之:医学部研究業績目録とその分析.岡山医学同窓会報80: 65 – 66, 1996
  8. 菅 弘之:我が医学部の論文掲載雑誌の分析.岡山医学同窓会報81: 37 – 38, 1996

グッドニュース!

このオピニオンが日生誌に掲載されてから
1年近くが経ちましたが、嬉しいことにJJPの
Impact Factorが、1996年には0.619に上がり、
1997年には1.007、1998年には1.294と
急上昇しました。これも皆様方のご支援のお陰と
感謝申し上げます。今後も益々良い論文のご投稿と、
それらの積極的な引用をお願いしたいと思います。