自分たちの機関誌を育てよう (金子章道)

JJP編集委員長 金子章道

 われわれ研究者の仕事は、世の中に公表されて初めて完結する。公表する方法は幾通 りもあるかとは思うが、われわれのコミュニティー(研究者の社会)で成果として認 められるためには、客観的な評価方法である査読によって適格だと認められた論文が 学術雑誌に掲載されることが必要である。学術雑誌の数は多い。日本生理学会が編集 しているJapanese Journal of Physiology(JJP)もそのひとつである。

第二次世界大戦後長い間、我が国では西欧の科学技術を導入し、それを模倣する時期 が続いた。その間、我が国は科学情報の受け手であった。しかし、自らの手でオリジ ナリティを産み出すべき時代となった今日、こちらからも優れた情報を発信し、対等 な立場で研究の国際協力を行う必要がある。科学情報の交換は双方向性でなくてはな らない。 最近、論文投稿に関して耐え難い経験をした。JJPに掲載された論文を引 用論文としたところ、自分の身の回りにそのような雑誌はないので原稿を評価出来な いというコメントである。これは投稿者を侮辱したコメントである。仮に、その査読 者は購読していなかったにせよ、図書館の相互貸借制度などを利用すれば引用論文を 見ることは出来ないはずはない。反面、この事実はJJPが余り普及していないことを 如実に示している。 研究者は誰しも自分の行った研究が高く評価されることを希望 する。そのために、論文が評価の高い学術雑誌に掲載されることを望む。学術雑誌の 評価基準としては、優れた論文が多く掲載されていること、世界中に広く配布されて いて購読者が多いこと、掲載された論文がそれ以降の研究を進める上で大きな影響力 を及ぼすことなどであろう。しかし、これらの要素は複雑に絡み合っている。優れた 論文が多く掲載されていれば、自ずと購読者は増えるであろう。購読者の多い雑誌に は投稿が増え、紙面は限られているから採択論文は厳選されることになる。このよう な良循環が学術雑誌の質の向上につながる。

これまでJJPの編集委員を務められた諸先輩が雑誌の質を向上させるためにたゆまぬ 努力を重ねてこられた。私自身も委員長をお引き受けして以来、この目的のためにさ まざまなことを試みてきた。しかし、この目的は一朝一夕に達せられるものではない。雑誌は投稿者があり、購読者があって成り立つものである。特に、学術雑誌の場合 にはそれ以外の要素は何もない。生理学会の機関誌であるJJPの場合、主たる投稿者 は日本生理学会会員である。

多くの国は自国の学術雑誌を持っている。国際化したといっても、Journal of Physiologyは英国生理学会の雑誌であり、American Journal of Physiologyは米国生理学 会の雑誌である。その雑誌はその国の研究水準を反映するものとして、それぞれの会 員は雑誌に高い誇りを持っている。会員諸賢をはじめ我が国の研究者の中には、国際 的にもトップレベルの研究をされている方が大勢おられる。ところが、我が国の雑誌 のレベルは日本の研究水準に比べて、あるべき水準より極めて低いと言わざるを得な い。 そろそろわれわれの力で誇れる雑誌を作れる時が来たと思う。我が国の優れた 生理学研究論文がJJPに多数掲載されるようになれば、外国の研究者もJJPを無視する ことは出来なくなるであろう。JJPを生理学会員が誇れる高い水準の学術雑誌に育て るために会員諸賢の一層の努力と協力を望むものである。