生理学用語集について (植村慶一)

慶應義塾大学医学部生理学教室 植村慶一

 生物の形態を取り扱う解剖学、構成物質の研究をする生化学に対して、生理学はそ れらの成果を踏まえて生物の機能を研究する学問であり、従来は電気生理学を主流と し、医学、歯学、獣医学を合めた生物学の基礎として発展してきた。最近の分子生物 学をはじめとする関連分野の研究の進歩は目覚ましく、従来の解剖学、生化学、生理 学の枠を超えて、あるいはそれらを統合した生物科学といった分野が開かれてきた。 このような状況のもとに、生理学も新しい時代に則した新生理学に脱皮、発展する転 機にきているように思われる。

生理学会では、従来生理学で用いる用語をまとめた用語集を作成して出版してきた 。1938年に日生誌の付録として「生理学学術用語語彙」が公表され、その後1960年に 「生理学用語集〔南山堂)」、1972年に「生理学用語集〔医学書院〕」と時代の変化 に即応した新版がだされ、最新版は1984年「新版生理学用語集〔南江堂〕」として、 酒井敏夫先生を中心とした用語委員会の方々のご尽力によって完成したものである。 今回、新しい時代に則して用語集を改訂することが決定され、各分野のエキスパート に編集委員およぴ専門委員をお願いして、委員会が結成され、現在改訂の作業が進行 中である。実際に作業してみると、まず日本語の難しさ、あいまいさ、それと共に日 本語より一般的になっている多くの外来語の取扱いに悩まされる。英訳語の必要性は 誰しもが認めるところであるが、ローマ字、独、仏訳語の有用性については種々の意 見がある。ざらに、各委員から新しく追加すべき事項として提出ざれたものを集計し てみると膨大な数となり、とても小冊子では扱いきれなくなる可能性もある。また、 常任幹事会でも意見のでた関連学会の用語との調整も大きな問題である。このように 色々の問題を抱えて頭の痛いこの頃であるが、会員の皆様の一層のご協力とご鞭捷に よって、新しい時代にふさわしい新生理学用語集を完成したいと念願している。