083. K+チャネルが細胞膜の脂質の環境を感じ取り活性を制御する機構の解明

細胞を包むリン脂質の二重層である細胞膜にはイオンチャネルという膜蛋白質があり、この蛋白質の中心にはイオンが通る穴があります。ここをイオンが流れて発生する電気信号は、細胞の情報伝達などに利用されています。チャネルがこの穴を開け閉めする活動は細胞内外からの様々な刺激で制御されますが、時々刻々変化するチャネル周囲の膜脂質組成の影響も受けることが知られています。しかし、脂質がどのようにチャネルの活動を変えるのか、詳しくはわかっていません。今回、KcsAというK+チャネルを使い、様々な脂質組成の人工膜中で詳しく活動を調べました。その結果、細胞膜内側表面が負の電荷を帯びる脂質組成では、穴を開けやすくなることがわかりました。また、チャネルの端から膜に沿って棒状に伸びた構造が、細胞膜内側の脂質を感知するセンサーであることを突き止めました。負に帯電した膜表面では、この棒状の構造が回転した位置にとどまり、チャネルの穴を開いた状態に固定していることもわかりました。(Iwamoto and Oiki, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 110:749-754, 2013)
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図の説明

KcsAカリウムイオンチャネルは、チャネルから水平に突出した“膜脂質センサー”で細胞膜内側の脂質を感知し、活性を変化させている。細胞膜内側表面が負の電荷を帯びる脂質組成のとき(右)、センサーの正の電荷が引き寄せられ、チャネルの穴を開いた状態に固定する。