末梢神経損傷に伴う神経障害性疼痛では、中枢性感作と呼ばれる中枢神経系の過興奮が痛みの信号伝達の増強に関わると考えられています。しかし、直接損傷されない中枢神経系にこのような可塑的変化が誘導されるメカニズムはよくわかっていませんでした。我々は、ホールセル・パッチクランプ法を用いて、末梢神経の切断が視床ニューロンの静止膜電位の過分極シフト、入力抵抗の低下、および過分極で活性化される電位依存性カチオンチャネル(HCNチャネル)の機能低下を引き起こすことを明らかにしました。この状態の視床ニューロンは高頻度発火(バースト発火)しやすくなります。我々は、以前に末梢神経切断が視床の持続性抑制(シナプス外GABAA受容体を介した持続的Cl−流入)の増強と、末梢神経からの入力を視床へ中継する脳幹領域でミクログリア(グリア細胞の一種)活性化を引き起こすことを報告しました。これらの変化を遺伝学的または薬理学的に抑えると、末梢神経切断後の視床ニューロンの発火パターンの変化を阻止できました。また、薬理学的な脳幹局所のミクログリア除去は、末梢神経切断後の視床の持続性抑制増強を阻止しました。よって、末梢神経切断後、損傷経路を介したミクログリアと抑制性入力の連鎖的な機能連関が、損傷部位から遠く離れた視床ニューロンの発火パターンを調節することが示唆されました。視床ニューロンの過興奮は末梢からの痛み信号を大脳皮質へ増強して中継する働きがあるため、ミクログリアやシナプス外GABAA受容体を標的とした治療は、中枢性感作を抑え、痛みの緩和に寄与するのではないかと考えられます。
Peripheral nerve injury increases the probability of thalamocortical burst firing remotely via microglia-dependent enhancement of tonic inhibition. Ueta Y, Miyata M. Progress in Neurobiology 262: 102923, 2026.

<図の説明>
ヒゲ感覚を支配する末梢神経(三叉神経の枝である眼窩下神経)を切断したマウスでは、ヒゲの周辺部位の皮膚への機械刺激によるアロディニア様の行動(通常痛くない強さの刺激が痛みとなる)が見られる。体性感覚情報は末梢神経から同側の脳幹Pr5(三叉神経主知覚)核へ、さらに対側の視床VPM(後内側腹側)核を中継して、大脳皮質S1領域(一次体性感覚野)へ到達する。神経切断後、脳幹Pr5核ではミクログリアの凝集が生じる。このミクログリアの活性化は視床におけるシナプス外GABAA受容体を介した持続性抑制の増強に必要で、さらに、持続性抑制の増強は視床ニューロンの膜特性を変化させ、バースト発火しやすい状態に変えるために作用する。視床ニューロンのバースト発火は、末梢からの感覚情報を大脳皮質に増幅して伝えることができる。
























