052.免疫系で有名なCD38が「子育て」「他者の認識・記憶」に必要

CD38はリンパ球の増殖を活性化する膜タンパク質として発見された。その後、脳にも発現していることが報告されたが、その生理機能は不明であっ た。今回我々は、CD38遺伝子欠損マウス(1999年に東北大岡本ら作出)が飼育過程でよく動き回ることに気づき、詳細に行動解析を行った。その結果、 雌の養育行動と、雄が雌を認識し記憶する能力に障害があることがわかった。同様の異常はオキシトシンあるいは、その受容体欠損マウスで報告されていること から、CD38遺伝子欠損マウスのオキシトシン濃度を測定したところ、血中、髄液中ともに野生型の半分程度しかなかった。オキシトシンの産生放出元である 視床下部、下垂体にはオキシトシンが充満していたことから、オキシトシンの放出に障害があると考えられた。単離した視床下部神経細胞や下垂体後葉軸索末端 を用いた実験で、CD38が合成するcADPRが、リアノジン感受性細胞内カルシウム貯蔵庫からのカルシウム放出に重要であること、このカルシウム放出が ないとオキシトシン放出システムが駆動しないことを明らかにした。本研究で観察されたマウスの行動異常は、「人を認識・記憶し信頼する能力」が希薄になっ ている人の自閉症を含む発達障害者の行動に類似しており、「人と人の間にある絆・愛の生物学的基礎」の一端の解明に寄与したといえる。(Nature 446: 41-45, 2007)
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