014.細胞遊走二方向性制御のメカニズムを解明

器官・形態形成や癌の浸潤・転移、動脈硬化など様々な生理的・病的プロセスに関与している細胞遊走は、正あるいは負に制御する種々の細胞外シグナル因子によって厳格に調節されている。血中に存在する脂質メディエーターの一つスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は細胞遊走を正あるいは負の二方向性に制御する。私達は、S1Pによる負の制御は、G蛋白質共役型S1P受容体ファミリーの中のS1P2受容体、G12/13蛋白質、Rhoを介したRac活性を抑制によることを明らかにした。Rho及びRacはCdc42とともに低分子量RhoGTPaseファミリーに属し、細胞運動に密接に関わる現象であるアクチン重合を制御している。また、S1Pによる正の制御は、S1P1及びS1P3受容体、Gi蛋白質を介したRacの活性化によった。しかし、百日咳毒素処理により、このS1P3受容体による遊走促進作用が消失し、逆にS1P2受容体同様、Rac活性・細胞遊走の抑制に転じたことから、S1P3受容体は正と負の制御シグナルをともに発しているが、正のシグナルであるGi経路が優勢なため負のシグナルであるG12/13-Rho経路の作用をマスクしている結果、細胞遊走が正に制御されることを見出した(Mol. Cell. Biol. 23, 1534-1545, 2003)。また、本研究はScience誌On Line版のSignal Transduction Knowledge Environment(Sci. STKE, Vol. 2003, Issue 171, pp. tw81)で広く紹介された。
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