152.樹状突起におけるシナプス集積は出力のダイナミックレンジを広げる

樹状突起内でのシナプスの集積は、入力の加算を増強することで情報を増幅する役割を持つと考えられていました。今回我々は、このシナプス集積が、逆に加算を抑制し入力の飽和を防ぐことにより、出力のダイナミックレンジを広げる役割を持つことを、音源定位行動に関わる神経細胞を用いて明らかにしました。

音源定位を行う手がかりとなる両耳間時差(ITD)は、左右の入力が合流する脳幹の神経核で最初に検出され、鳥では層状核(NL)がその役割を担います。NL細胞は担当する音の周波数に応じて樹状突起の長さを変え、低い周波数に応答する細胞ほど長い樹状突起を持ちます。しかしながらその機能的意義は分かっていませんでした。

我々は、二光子レーザー顕微鏡を用いたグルタミン酸局所刺激によって、NL細胞の樹状突起におけるシナプス分布を解析しました。その結果、低周波数細胞の長い樹状突起ではシナプスが遠位部に集中していることを見出しました。この分布により遠位樹状突起ではグルタミン酸受容体を介した電荷流入の減少とカリウムチャネルを介した電荷流出が生じ、細胞体での電位変化は小さくなります。この減衰効果は入力するシナプス数が多くなるほど強く、このことが大きな入力に対しても正確なITD検出を可能にすることが分かりました。さらに、この効果は低周波数入力でのみ認められることから、NL細胞では細胞構造とシナプス分布が入力周波数に応じて最適化されることで、幅広い入力強度に対応していると考えられました。

本研究は樹状突起の演算素子としての新たな可能性を開いたものであり、他の脳領域における、樹状突起を介した情報処理の理解にもつながると考えています。

Dendritic synapse geometry optimizes binaural computation in a sound localization circuit.
Yamada R, Kuba H.
Science Advances 7(48): eabh0024, 2021.

低周波数細胞の長い樹状突起においては、遠位の分枝に入力が集中している。この樹状突起局所(< 15 µm)に対して、図のように8個の刺激スポットを設定し、1番から8番まで1.3ミリ秒間隔で連続アンケージ刺激を行った。連続刺激を行った時に細胞体で記録される電位変化(赤色)は、単独刺激で記録した個々の応答を同じ間隔で単純加算した場合(黒色)に比べて、大きく減衰することが分かった。