100. 皮質トップダウン入力は知覚に必須である

 ものに触れたときに得られる皮膚感覚(触覚)情報は、脊髄や視床を経由して大脳皮質の第一体性感覚野(S1)に到達し、より高次の脳領域に伝わります。この低次の領域から高次の領域への情報入力を「ボトムアップ入力」と呼び、反対に高次から低次への入力を「トップダウン入力」と呼んでいます。これまでは、外部情報に基づく外因性のボトムアップ入力と、注意や予測などに起因する内因性のトップダウン入力とが皮質のある領域で一緒になることで、神経細胞の樹状突起で樹状突起スパイクが発生し、これが細胞体に伝播して連続発火活動を引き起こし、そして皮膚感覚が知覚される、との仮説が支持されてきました(図1A)。もし、これが正しいとすれば、トップダウン入力だけでは皮膚感覚は知覚できず、「注意しながら、予測しながらものに触らなければ何も感じない」ということになります。しかし、私たちは、そんな予測をしなくても皮膚感覚を知覚できています。この仮説では実体験を説明できません。本研究では、この疑問を明らかにするため、皮膚感覚を形成する神経回路とそのメカニズムの解明に取り組みました。

 本研究ではマウスを使い、後足を刺激したときに脳内で起きる神経活動を単一の神経細胞レベルから回路のレベルまでくまなく測定しました。その結果、トップダウン入力とボトムアップ入力が一緒になるという神経活動は観察されませんでした。その一方で、皮膚感覚の情報が外因性ボトムアップ入力として高次脳領域に送られた後に、再び第一体性感覚野へ「外因性のトップダウン入力」として自動的にフィードバックされる「反響回路」が存在することを発見しました。また、反響回路が、これまで提唱されてきた内因性トップダウン入力と外因性ボトムアップ入力が一緒になることと同等の機能(すなわち樹状突起スパイクの誘起)を担っていることを突き止めました(図1B)。外因性トップダウン入力を抑制したところ、樹状突起スパイクと細胞体での連続発火活動は抑制され、マウスは皮膚感覚を正常に知覚できなくなりました。

 これらの結果から、皮膚感覚の知覚における従来の神経回路モデルとは異なる新しい神経回路モデルが示されました。脳はこの2つの神経回路を状況により使い分けている可能性があると考えられます。今後、詳細に第一体性感覚野への外因性トップダウン入力のメカニズムを明らかにすることで、五感の知覚能力の低下予防や改善の手がかりを得ることが期待できます。

Satoshi Manita, Takayuki Suzuki, Chihiro Homma, Takashi Matsumoto, Maya Odagawa, Kazuyuki Yamada, Keisuke Ota, Chie Matsubara, Ayumu Inutsuka, Masaaki Sato, Masamichi Ohkura, Akihiro Yamanaka, Yuchio Yanagawa, Junichi Nakai, Yasunori Hayashi, Matthew E. Larkum & Masanori Murayama, “A Top-Down Cortical Circuit for Accurate Sensory Perception”, Neuron. 2015 Jun 3;86(5):1304-16.  Co-first author.

 

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