日本生理学雑誌 第71巻 2号

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表紙の説明

第85 回日本生理学会大会(東京)
演題番号: 3P-G-156
演題: 「高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析装置により測定した血管異常収縮の原因分子,スフィンゴシルホスホリルコリンの血清濃度: 132 人の健康ボランティアドナーの測定結果」
“Serum concentrations of sphingosylphosphorylcholine, an inducer of abnormal vascular contraction, measured by a high-performance liquid chromatography/tandem mass spectrometry: the result from 132 healthy human volunteer donors”
演者: 高田雄一1, 2, 徳森大輔1, 2, 岸博子1, 川道穂津美1, 加治屋勝子1, 郭 鳳玲1, 徐 丹1, 王 晨1, 松尾さやか1, 大河内満3, 小林誠1, 2
所属: 山口大院・医・器官制御・生体機能分子制御,2 独立行政法人・科学技術振興機構・JST イノベーションプラザ広島・小林プロジェクト,3 財団法人日本予防医学協会

我々はこれまでに,血管異常収縮の原因分子としてスフィンゴシルホスホリルコリン (SPC) を見出し, その血清濃度測定法の開発に力を注いできた (特許取得済み). 今回, その開発した測定法を用いて,132 人分の健康ボランティアドナーの測定をおこない, 非血管異常収縮時の血清SPC 濃度の平均値, および範囲を求めたところ, それぞれ, 8.02nM±0.14nM  と 2.76-13.25nM であることが判明した.
表紙の図は, 本測定法に欠かすことのできないタンデム質量分析計によるMultiple Reaction Monitoring (MRM )の測定原理 (上図), および測定結果 (左下図) を示している. 液体クロマトグラフィー (LC) によって分離した各分子は, 順次, イオン化した状態で質量分析計に取り込まれ, Q1 でプレカーサーイオンの選別, Q2 で衝突誘起解離, Q3 でプロダクトイオンの選別を受ける. この際, 目的分子に固有の質量電荷比 (m/z) をあらかじめ設定しておくことで,高感度かつ高精度な測定が可能となる (SPC で Q1/Q3: 465.3/184.1, SPC の安定同位体元素標識コントロールであるSPC-d3 で Q1/Q3: 468.3/187.1).  実際に, 本測定法によって作成した血清ベースの検量線 (右下図) は, 数nM という低濃度領域を含めても, 高い直線性を示しており, 他測定法では困難であった SPC の定量的解析を可能としている.
なお,本研究は, 財団法人日本予防医学協会の協力を得て, 科学技術振興機構・JST イノベーションプラザ広島における実用化のための育成研究 (小林プロジェクト) の一環として行った.