日本生理学雑誌 第71巻 3号

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表紙の説明

第85 回日本生理学会大会(東京)
演題番号: 2P-F-006
演題: 「神経ステロイドDHEAS はSrc とNMDA 受容体機能の相互増強回路を介して海馬LTP 誘導を促進する」
“Neurosteroid DHEAS facilitates hippocampal LTP-induction via a recurrent potentiation between Src and NMDAR”
演者: 曽我部正博1,2, 陳玲2,3, 古家喜四夫2
所属: 名古屋大学大学院医学系研究科, 2JST, ICORP/SORST・細胞力覚, 南京医科大学
神経ステロイド Dehydroepiandrosterone-Sulfate (DHEAS) の脳内レベルは, 加齢に伴って低下する一方, 適量投与で学習記憶を促進する. しかし, その標的分子や作用機序は不明である. 我々は, DHEAS の慢性投与 (20mg/kg for 7 days) が, ラット海馬CA1 シナプスのテタヌス誘導性長期増強 (LTP) の刺激閾値を著しく低下させることを発見し, その分子機構を解析した. SD ラット脳スライスを電位感受性色素 (RH482,RH155) で染色し (A), シナプス終末電気活動 (PSFV), シナプス性グリア脱分極(SIGD), EPSP を同時記録するとともに (A), 錐体細胞のCa2+イメージングや生化学的分析を行った. DHEAS 投与群では通常LTP を誘導できない 100Hz30パルスの閾値下テタヌス刺激 (HFS) で充分なLTPが誘導された (B). DHEAS 投与群のPSFV やSIGD が変化しないこと,LTP 誘導促進は sigma 1 (σ1) 受容体のアンタゴニスト NE100 で完全に抑制されることから, DHEAS はシナプス後細胞のσ1 受容体に作用することが示唆された. また, DHEAS は σ1 受容体の下流で CA1 錐体細胞の NMDA 受容体依存性細胞内Ca2+上昇を促進し, その下流で HFS 依存的に Src(C) とERKの活性 (チロシン燐酸化) を増大させた. 逆にこのCa2+上昇はSrc 活性上昇(によるNMDA 受容体燐酸化)に依存した. この “NMDAr-Ca2+→Src→NMDAr-Ca2+” という相互促通回路の下流で生じるERK 依存的なAMPA 受容体の up-regulation が, LTP誘導を促進するものと思われた.