日本生理学会雑誌81巻3号

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表紙の説明

〈表紙の図〉

大会名:第96回日本生理学会大会

演題番号:1P-081

演題名:iPS細胞とたばこ煙溶液を利用した杯細胞過形成モデルの作製

演題名(英語):In vitro generation of goblet cell hyperplasia model using iPS cells and cigarette smoking solution

演者:吉江 進,三宅将生,挾間章博

所属:福島県立医科大学医学部細胞統合生理学講座

説明(キャプション):

習慣的なたばこ煙の吸入による気道のリモデリングは,気道上皮細胞の杯細胞過形成や粘膜下腺過形成,基底膜下の繊維化,平滑筋の肥厚を特徴とする.その中でも,杯細胞過形成による過剰な粘液産生は高度な気道閉塞を来たす理由の一つであり,肺組織の破壊を招く.このため,たばこ煙による杯細胞過形成機構の解明は急務とされているが,たばこ煙による杯細胞分化や粘液産生を誘導するメカニズムの全容は明らかになっていない.本研究の目的は,自己複製能と多分化能を有するiPS細胞から気道上皮組織を作製し,たばこ煙溶液処理を行い,in vitroで杯細胞過形成モデルを作製することで,病態メカニズムの解明に繋げることである.

iPS細胞から,スフェロイド形成や気相液相界面(ALI)培養を組み合わせることで機能的な気道上皮組織へ分化誘導させた1)2)(図A,B).その後,たばこ煙溶液(CSS)で1週間処理することで,杯細胞過形成モデルの作製を試みた.リアルタイムRT-PCRで評価した結果,CSSで処理したiPS細胞由来杯細胞過形成モデルにおいて,杯細胞マーカーの発現がControlよりも上昇した(図C).杯細胞過形成を引き起こす分子メカニズムを調べるために,マイクロアレイ解析を行った結果,発現に変動があった遺伝子を幾つか抽出した(図D).これらの結果から,iPS細胞由来気道上皮組織をCSSで処理することで杯細胞過形成様モデルの作製に成功し,幾つかの遺伝子が杯細胞過形成に関与していることが示唆された.

A:iPS細胞由来気道上皮組織の組織学的評価.スフェロイド内部(a,b,c)に気管上皮組織(d,e,f)と酷似した上皮組織が確認され,免疫染色によって各種気道上皮マーカーの適切な局在も確認された(g,h,i,m,n,o).また,SEMにより線毛を確認した(t).

B:iPS細胞由来気道上皮組織の線毛運動.iPS細胞由来線毛上皮細胞における線毛運動の周波数を解析した結果,気道上皮特有の周波数(8~25Hz)であることを確認した.

C:iPS細胞由来杯細胞過形成モデルの遺伝子発現解析.たばこ煙溶液(CSS)で処理したiPS細胞由来杯細胞過形成モデルは,未処理(Control)に比べ,杯細胞マーカー(Muc5ac,AQP5)の発現量が上昇した.

D:杯細胞過形成を引き起こす候補遺伝子の抽出.スキャッタープロット解析によって,CSSで処理したiPS細胞由来杯細胞過形成モデルの発現量が,Controlに比べ,2倍以上上昇した変動遺伝子を抽出した.

〈関連論文〉

1.Yoshie S et al., Journal of Cellular Physiology. 2019 February; [Epub ahead of print]
2.Yoshie S et al., Cell and Tissue Research. 2016 May; 364

利益相反の有無:なし