私の一番大切な日本生理学会 (菅野義信)

上越教育大学障害児教育研究系 菅野義信

 ノーベル賞の一分野に医学生理学賞がある。受賞した研究は広く臨床医学から基礎医学・生物学全般に及んでいる。生理学は広く医学全体を支える学問 であるとの認識が強く、私は生理学のこの使い方と理解が大変好きで、大切なことと思っている。一方、医学教育では基礎講座名は解剖学、生理学、生化学、薬 理学、病理学等文部省の制定名に統一され、歯学部に至っては口腔解剖、口腔生理、歯科薬理、歯科理工等すべて口腔か歯科を冠せられた。講座名で、法制上の 学部所属等は判り易いが、講座内で遂行する学問研究内容は甚だ誤解を招き易く、混乱や人材の登用に悪用された場合すら見受けられる。又理学部内の動物学や 植物学でも生理学は重要な柱を荷っているし、文学部や教育学部内の心理学科や、体育系でも重要な柱である。我が障害児教育の中でも、障害児生理学(病理 学)は4本柱の中の一つである。農学関係での獣医生理学の重要性も言をまたない。

大きいことばかりが良いとは云えないが、日本生化学会が医学部、理学部、農学部他に属する研究者の発表の場に比して、生理学会ではどうも医学部生 理学講座所属の研究発表に片寄ってきたきらいがあり、神経生理学は外国の影響もあり、別の形を整えている。確に学会は研究者の自由意志で入会し、生理学分 野の研究発表であれば自由に発表できる。しかしノーベル賞の医学生理学として理解される生理学研究分野の価値ある研究が、文部省科学研究費の配分にも審査 委員選出に関与があり、研究発表を呼び込む環境を充分に備えた日本生理学会の場で(口頭発表に加え、雑誌上での論文として)如何程公表されているであろう か。

日本生理学会の常任幹事は地方会別の選挙で選出される。これ自体は立派な民主的手続きである。それから先は選ばれた常任幹事の良識と見識に負うところがまことに大となる。日本生理学会の各種委員会の委員は常任幹事会で選出(投票)された各種委員会委員長1人の指名・任命である。現在、各種委員会委員の中に生理研を除いて医学部生理学教室の教授以外の方が何人おられるであろうか。多分今お1人もおられないのではなかろうか(若しおられても極く少数である)。

私自身広島大学の歯学部に移り、30年近くの間には、生理研の創立に力を尽し、8年間日本生理学会の欧文誌の編集に助力し、中国四国地方の会員から又その他からも、どういう訳か気軽に私の所には日本生理学会に関して沢山の要望があった。常任幹事に選出されたのは何と広島大学は停年の1年前で、唯一の歯学部籍の初の常任幹事も、上越教育大に移籍した今、歯学部籍は零となり、医学部生理学教授以外では、学会世話役の方を除いて、唯一の常任幹事である。日本生理学会の将来像は、実は、会員11人の展望そのものである。それには単なる名誉職でない常任幹事の選出に全てがかかっていると私は申しあげておきたい。

次は生理学教育である。前述の如く、生理学教育は医学教育の中にだけあるのではない。身近な例をあげれば養護学校で、肢体不自由児、てんかん発作 を頻発するものを含めての知的障害児等の養護訓練と教育は医師でない教員が行っている。学校教育学部を含む教育学関係の医師の教員には教医研という教育学 部関連医学研究会があるが、参会者は内科か精神科の出身者が多く、外科系や生理学者は皆無である。

MRSAは、過多の抗生物質使用による常在菌の突然変異であるとか、AIDSは ウイルスによる感染症であるとかも生理学が基礎になる。又、養護学校での嚥下、呼吸、大小の排泄の生理学はまことに重要である。これ等のことが生理学の教 科書にはほとんど書いていない。むしろ歯学部で使用する口腔生理の教科書に記載がある。生理学の教育は医学教育の中でが中心になるのはやむを得ないし、当 然であるが、あらゆる分野での生理学教育をおろそかにすることは、自ら、生理学者と日本生理学会の首をしめることにならなければ幸である。