193. 日本産ワサビ成分は象牙質を再生する

歯を構成する象牙質形成過程では、象牙芽細胞がその形成と石灰化に重要な役割を果たします。本研究で、ワサビに含まれる複数の成分に強い象牙質形成能力・再生能力があることが明らかになりました。主なワサビ成分である6-MSITC(ヘキサラファン®️)は、象牙芽細胞内で炭酸脱水酵素(CA)を活性化し、重炭酸イオンと水素イオンの生成を促進します。生成された両イオンは細胞外へと輸送されると同時に、ナトリウムイオンとカルシウムイオンの細胞内外輸送が連携して促進されます。その結果、1)象牙芽細胞外のアルカリ性環境が形成、2)カルシウムイオンの細胞外輸送が生じることで、象牙質が再生されます。この輸送は、象牙芽細胞膜に存在する重炭酸イオン輸送体(SLC4Aファミリー)、ナトリウム–水素イオン交換輸送体(NHE)、ナトリウム–カルシウムイオン交換輸送体(NCX)および細胞膜カルシウムイオンポンプ(Ca2+-ATPase; PMCA)からなる活性化経路を介して行われます。このように、ワサビ成分6-MSITCは、CAを介したSLC4A–NHE–NCX–PMCAの連続的な活性化をもたらすことで象牙質再生を強力に誘導する能力を示します。6-MSITCは、歯科・口腔医学領域において、新たな象牙質再生治療の有望かつ強力な薬物候補物質と考えられ、国内外において特許が出願されています。

論文タイトル
6-Methylsulfinylhexyl isothiocyanate activates carbonic anhydrase-dependent HCO3/H+/Na+/Ca2+ transport via SLC4As–NHE–NCX–PMCA axis in odontoblasts

全著者名
Yoshiaki Furusawa, Maki Kimura, Isao Okunishi, Takehito Ouchi, Ryuya Kurashima,
Tomoe Katou-Yamada, Hidetaka Kuroda, Makoto Sugita, Masahiro Furusawa,
and Yoshiyuki Shibukawa

雑誌名
Journal of Physiology 604: 2816-2844 (2026)


<図の説明>

ラットの臼歯を削り(窩洞の形成)、窩洞内に主なワサビ成分である6-MSITC(ヘキサラファン®️)を投与すると象牙質が再生しました。6-MSITCは、象牙芽細胞内で炭酸脱水酵素を活性化し、重炭酸イオンを生成します。結果としてイオン輸送メカニズムを介した重炭酸イオン・水素イオン・ナトリウムイオン・カルシウムイオンの輸送を連続的に活性化させ、象牙質を再生します。6-MSITCで生成された重炭酸イオンは、象牙芽細胞膜に存在する重炭酸イオン輸送体(SLC4Aファミリー)で細胞外に輸送されます。細胞外に排出された重炭酸イオンは、細胞外アルカリ性環境を作り出します。また、同時に生成された水素イオンはナトリウム–水素イオン交換輸送体(NHE)で細胞外に排出されます。NHE活性化で細胞内に増加したナトリウムイオンは、ナトリウム–カルシウムイオン交換輸送体(NCX)によって排出されると同時にカルシウムイオンが細胞内に流入します。結果として細胞内で増加したカルシウムイオンは細胞膜カルシウムイオンポンプ(Ca2+-ATPase; PMCA)で細胞外に排出されることで象牙質の石灰化・再生が生じます。このようなイオン輸送メカニズムを介した重炭酸イオン・水素イオン・ナトリウムイオン・カルシウムイオンの輸送活性は、短期間で象牙質形成を促進します。したがって6-MSITCは、象牙質を再生可能な新規薬剤として応用できる可能性が示されました。CC BY 4.0ライセンスにおいて著者である澁川がJ Physiol (2026)より改変。