海外渡航や交代勤務による時差ぼけの解消、特に体内時計を「前進」させる(東向きの移動など)ことは生理学的に難しく、既存の手法では効果的なタイミングに大きな制約がありました。私たちは、哺乳類の時計遺伝子Per1を特異的に発現誘導する新しい化合物「Mic-628」を発見しました。Mic-628をマウスに投与すると、投与のタイミングにかかわらず脳と抹消の体内時計が同時に前進し、時差ぼけの回復期間が通常の約7日間から4日へと大幅に短縮されました。その仕組みとして、Mic-628は転写抑制因子CRY1に直接結合し、時計タンパク質の複合体(CLOCK-BMAL1)との相互作用を促します。この複合体が遺伝子のスイッチである「二重E-box配列」に作用し、Per1の転写を特異的にオンにすることが分かりました。さらに数理解析から、誘導されたPER1タンパク質自身による「自己抑制機構」が、投与時刻に依存しない安定した時計の前進作用をもたらすことを突き止めました。本成果は、体内時計の作動原理の理解を深めるとともに、服用時刻を問わず常に時計を進める「スマート薬」として、概日リズム睡眠障害に対する革新的な治療薬開発に繋がることが期待されます。
論文タイトル A Period1 inducer specifically advances circadian clock.
全著者名Yoshifumi Takahata, Yuki Kasashima, Takuya Yoshioka, Shusei Yashiki, Justina Kulikauskaite, Tomoaki Matsuura, Yuki Ohba, Hideaki Hasegawa, Naoki Yuri, Nagisa Iwai, Nanako Otsu, Mikiya Kitakata, Yuta Kitaguchi, Haruki Furune, Chihiro omori, Mutsumi Mukai, Yuki Komamura-Kohno, Yi-Ying Huang, Matsumi Hirose, Nobuya Koike, Yoichi Yamada, Kazuo Nakazawa, Kumiko Ui-Tei, Yoshiyuki Sakaki, Rika Numano, Koichiro Uriu, and Hajime Tei.
雑誌名Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS),123 (e2509943123), 2026.

<図の説明>
Mic-628をマウスに投与すると、脳の「中枢時計」と全身の「末梢時計」のどちらにも作用し、活動開始時間が約2時間前進します。分子レベルでは、Mic-628が時計タンパク質の一つ(CRY1)に結合してその構造を変化させます。これにより別のタンパク質複合体(CLOCK-BMAL1)の働きが促され、遺伝子の特殊なスイッチ配列(二重E-box)に結合して Per1 遺伝子を強力にオンにします。その後、作られたPER1タンパク質自身がブレーキ役(フィードバック抑制)となることで、安定した時計の前進を引き起こします。
























