068.膜伸展刺激による軸索伸長促進とその分子機構

TRPV2は1999年に52℃以上の侵害熱刺激を感知する熱センサーとしてクローニングされた。ところが、胎生期マウスを用い、脊髄領域におけるこのチャネルの発現時期を調べると、なんと、未成熟な神経細胞の出現にあわせて胎生10日目から脊髄運動神経とDRG感覚神経に限局してTRPV2発現が開始していた。子宮内の胎仔が52℃以上の侵害熱刺激を受容する機会は通常ないため、熱刺激以外のTRPV2リガンドが存在し、発達期には熱センサーとは全く異なるセンサーとして機能していると考えた。そして、解析を進めていき、胎生期のTRPV2は脊髄運動神経・DRG感覚神経が、末梢に向けて非常に長い軸索を伸長している時に細胞膜にかかる膜伸展刺激で活性化し、軸索伸長を促進させていることを突き止めた(図)。現在、この知見を応用して、軸索再生の実用化研究を進めている。本研究成果は、IUPS京都大会で発表し、本誌の第71巻51号(2009)の表紙にも取り上げて頂いた。Shibasaki et al, J Neurosci 30: 4601-4612 (3月31日号に掲載)
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図の説明

TRPV2は膜伸展刺激感知センサーとして機能し、軸索伸長を促進している。左上の紺色の丸と線は軸索伸長中の神経細胞を示している。伸長軸索(図中の伸びるとき)には、その細胞膜上に伸展張力がかかる。その際に、細胞膜上のTRPV2が膜伸展刺激を感知、活性化し、細胞外から細胞内へとカルシウムイオンを流入する。このカルシウムシグナルの惹起に伴い、伸長中の軸索が加速度的にさらに伸びることを突き止めた。胎生期脊髄領域においては、TRPV2が脊髄運動神経・DRG感覚神経に限局して強い発現を示す。これらの神経が介在神経などと比較し、とても長い軸索を末梢部位に投射する機構に膜伸展刺激センサー・TRPV2を用いていると考えられる。