痛みは外界からの侵害刺激を感受し、障害部位を認知するために生体にとって必要不可欠な感覚情報である。1997年に単離されたカプサイシン受容体TRPV1はカプサイシン、酸、熱という3つの侵害刺激を受容するイオンチャネル型受容体で、感覚神経終末で痛み受容の入り口を担う分子である。炎症性疼痛の発生メカニズムにATPやブラジキニンといった炎症関連物質によるTRPV1の感 作が重要であることがわかった。ATPやブラジキニンはG蛋白共役型受容体の下流でPKCを活性化し、TRPV1活性増強をもたらした。そして,その作用はPKCが直接TRPV1の2つのセリン残基をリン酸化して生じることが判明した。カプサイシンは発痛物質であるが鎮痛薬としても使われる。これはカプサイシンに暴露された感覚神経終末がその後の侵害刺激への反応性が低下するためで、TRPV1の細胞外カルシウム依存的な脱感作がその機序の1つと考えられている。細胞内に流入したカルシウムと結合したカルモジュリンがTRPV1に結合してチャネルの不活性化をもたらすことがTRPV1の脱感作に関与することが新たに判明した。このように痛み受容の中心的分子であるTRPV1の感作・脱感作の分子メカニズムが明らかにされつつある。今後の展開に期待したい。(JBC 277, 13375-13378,2002; PNAS 100, 8002-8006, 2003)
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