細胞膜の張力は、膜タンパク質の機能を大きく変化させる。我々はこれまで、油中水滴表面の脂質単分子層を利用して形成される接触バブル二重膜(CBB)を用い、イオンチャネルの張力感受性を単一チャネル電流記録により解析してきた。CBB法では、バブル内の圧力を調整することで膜張力を制御できるが、一定の張力を維持するにはマイクロインジェクタを用いた極めて精密な圧力制御が必要であり、熟練した実験技術を要するという課題があった。そこで本研究では、バブルの顕微鏡画像(バブル半径・接触角)と圧力値を用いてヤング・ラプラス式およびヤング式に基づき膜張力をリアルタイムで測定する装置を確立した。さらにフィードバック制御によってインジェクタを自動操作するシステムを開発した。このシステムにより、膜張力を長時間安定して維持できるだけでなく、任意の張力を迅速かつ正確に設定できるようになった。その結果、KcsAチャネルやTREKチャネルの張力依存性をこれまでにない精度で解析できることが示された。本装置は、チャネルの張力感受性研究における新たな標準的手法となり、実験の自動化と高効率化に貢献すると期待される。
Programmable Lipid Bilayer Tension–Control Apparatus for Quantitative Mechanobiology.
Yuka Matsuki, Masayuki Iwamoto, Takahisa Maki, Masako Takashima, Toshiyuki Yoshida, Shigetoshi Oiki. ACS nano: 2024, vol.18, issue 44, p.30561-30573.
<図の説明>
CBB法を用いて、膜張力を段階的(3-8 mN/m)に変化させた時のKcsAカリウムチャネル単一チャネル電流記録。脂質二重膜には7個チャネルが存在しており、張力に応答して開確率が変化する。張力が高い時にはチャネル開確率が高く(青)、張力が低い時にはチャネル開確率が低い(赤)。