快情動が身体の健康にも良い事は経験的に誰もが知っていますが、そのメカニズムは未だに不明です。実験動物において快情動を定量化する方法が不十分である事がその一因と思われます。ネズミの笑顔を判定するのは困難なので、情動脱力発作に注目しました。情動脱力発作とは傾眠病患者に見られる特徴的な発作であり、笑いなどの快情動をきっかけとして四肢の筋肉が弛緩してその場に崩れ落ちる現象です。いっぽうマウスの求愛行動は、特徴的な超音波領域の発声で定量化できます。そこで、傾眠病の雄マウスに正常マウスを対面させ、この求愛発声と発作の同時観察を行いました(図a)。通常マウスと同様に傾眠病の雄マウスでも、雄とよりも雌との対面の際に発声回数が増加し(図b)、脱力発作も雌との対面で激増しました。発作の8割以上は超音波発声に引き続いて起きていました(図c)。また、良く鳴くマウスほど多く発作を起こしました(図d)。すなわち、性的な興奮が求愛発声と脱力発作という2つの行動出力の原因になっていたと考えられます。情動脱力発作を用いてマウスの快情動の客観的な定量化が可能と考えられます。
Sexual excitation induces courtship ultrasonic vocalizations and cataplexy-like behavior in orexin neuron-ablated male mice. Kuwaki T. & Kanno K. (2021) Communications Biology 4: 165 (https://www.nature.com/articles/s42003-021-01696-z), DOI: 10.1038/s42003-021-01696-z
Supplementで超音波発声と情動脱力発作(カタプレキシー)行動の同時記録動画を公開しています
a 観察方法:超音波発声と行動を、マイクとビデオカメラを通してそれぞれ記録した。情動脱力発作モデルマウスとしてオレキシン神経細胞特異的破壊マウスを用いた。音波は周波数解析してソノグラムに変換し、超音波周波数帯域を抽出した。b 4時間の観察期間中の発声回数。雌対面で有意に増加した。c 脱力発作の回数。雌対面かつ発声に伴う発作が多かった。d 発作に先立つ1分間の超音波発声回数と観察期間中の発作回数との関係。