骨格筋には、素早い運動を担う速筋と持続的な運動を担う遅筋が存在し、これらの協調した機能が我々の運動を緻密に制御している。これはヒトに限らず魚にも共通した仕組みである。近年、魚類の遅筋の神経筋接合部において、従来とは異なる新たな分子構成をもつアセチルコリン受容体が発見された。我々はこの新たな受容体の機能を解析するため、ゼブラフィッシュを用いて従来型の受容体のみに含まれる構成分子をノックアウトした。その結果、速筋のアセチルコリン受容体を喪失した動物が得られた。これは新規型のアセチルコリン受容体が遅筋においてのみ発現可能であることを示している。さらに、速筋が機能喪失した系統を用いて運動機能解析を行ったところ、稚魚においては遊泳速度が著しく低下するにも関わらず、成魚では野生型と同じ速度での遊泳が可能であることが示された。また、遅筋のみで運動する成魚においては、本来速筋に投射するタイプの運動ニューロンが遅筋へ投射することが示唆され、さらに、遅筋線維の一部が速筋線維に近い性質を示すよう変化していることがわかった。これらのメカニズムによって運動機能が補償されると考えられる。
Synaptic silencing of fast muscle is compensated by rewired innervation of slow muscle. Zempo B, Yamamoto, Y., Williams, T., Ono, F. (2020) Science Advances 6: eaax8382.
遅筋のみで運動するノックアウト系統の成魚においては、本来野生型では速筋に投射するタイプの運動ニューロンが遅筋へ投射している。