今回、私は、小脳の主要な出力細胞であるプルキンエ細胞の樹状突起では、樹状突起毎にそれぞれの興奮性が異なることによって、細胞体にまでシナプス後電流を伝導するか否かが調節されることを見出しました。さらに、興奮性可塑性と呼ばれるカリウムチャネルの機能低下を伴う興奮性変化メカニズムによって、シナプス後電流が伝導されやすくなることが分かりました。この現象は、神経細胞の樹状突起の特性変化に由来しており、シナプス可塑性ではない新しいタイプのシナプス電流伝導に関わる可塑性です。
本研究では、ラット脳切片上のプルキンエ細胞の細胞体と樹状突起から同時にシナプス後電流を記録することによって、遠位の樹状突起へのシナプス入力は、細胞体にまで効率的には伝導されないことを確かめました。一方、興奮性可塑性が誘導されたり、カルシウム活性型カリウムチャネルの一種であるSKチャネルの活性が抑えられた条件では、効率よく細胞体にまで伝導しました。さらに、同時記録したシナプス後電流の比を取る計算手法によって、プルキンエ細胞には平均4.5個のクラスター入力があることも推定できました(図)。驚くことに、このクラスター入力の数は、興奮性可塑性を誘導したり、SKチャネルを抑制することによって減少しました。つまり、樹状突起毎のシナプス入力の選別機序が、興奮性可塑性誘導によって崩れたことを意味します。これらの結果は、新しいタイプのシナプス伝達選別の調節機序ですが、小脳依存的学習との関わりをさらに調べなければなりません。
Modification of Synaptic-Input Clustering by Intrinsic Excitability Plasticity on Cerebellar Purkinje Cell Dendrites. †Ohtsuki G. †corresponding author. Journal of Neuroscience 3211-18, 2019.
DOI: https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.3211-18.2019
小脳プルキンエ細胞では樹状突起毎に異なる仕組みでシナプス後電流を伝導する。プルキンエ細胞の細胞体と樹状突起から微細な2本のガラス電極で記録した電流の模式図を示す。赤の電極は樹状突起から、黒の電極は細胞体からの記録を示す。電流トレースの色も一致させてある。 プルキンエ細胞から同時記録した興奮性シナプス後電流は、樹状突起と細胞体でその大きさが一致していない。また、興奮性シナプス後電流の比が近い応答が複数個現れることから、シナプス入力がクラスターしていることが示唆された。図中トレース上の丸の色は、シナプス後電流の比が近い応答の区別を表す。