私たちは目にしたものをもとに関連したものを思い出すことができます。こうした心のはたらきには、大脳の側頭葉が重要な役割を果たしていると考えられてきましたが、側頭葉ニューロン群が「ものを見た」知覚情報から記憶を想起する際にどのように協調して働くのか、背景にある神経回路やその動作原理はほとんどわかっていませんでした。そこで本研究では、記憶課題を学習したサルを用いて、「ものを見て、ものを思い出す」際の側頭葉神経回路のはたらきについて調べました。サルに対になった視覚図形を学習させ、ある図形を見たときに対の図形を思い出すように訓練しました。そして、課題遂行中に側頭葉の36野とTE野とよばれる二領域の神経活動を同時計測しました。その結果、想起する図形そのものを表象している36野ニューロンの神経活動は、図形を見たときにはTE野の浅層とよばれる皮質層と協調的に働くことがわかりました。一方、対となる図形を思い出す際にはTE野の深層とよばれる別の皮質層と協調的に働くことがわかりました。本研究により、視覚知覚・記憶想起という異なる認知プロセスに依存して、皮質層レベルで異なる側頭葉神経回路が働くことが明らかとなりました。
Dynamic laminar rerouting of inter-areal mnemonic signal by cognitive operations in primate temporal cortex
Masaki Takeda, Toshiyuki Hirabayashi, Yusuke Adachi, Yasushi Miyashita. Nature Communications 9: Article number: 4629, 2018.
https://www.nature.com/articles/s41467-018-07007-1 (Open access)
本研究で神経活動を計測した脳領域(左)と明らかになった神経回路の切り替え(右)。サルが記憶課題を遂行している最中に、側頭葉で隣接する36野とTE野とよばれる二領域からの同時記録を行った。その結果、図形を見ているときと図形を主題しているときでは36野―TE野間の神経回路動作は皮質層レベルで切り替わっていることが明らかとなった。