我々の脳には睡眠システムと覚醒システムが存在しており、適切なタイミングで両者が切り替わります。この制御に重要なのがオレキシンであり、無くなるとナルコレプシーという睡眠障害が発症します。特徴的な症状として、日中の非常に強い眠気(睡眠発作)と情動性脱力発作があります。本研究は、睡眠・覚醒のスイッチを制御するオレキシン産生神経細胞から放出されたオレキシンを受け取り、覚醒を安定化させる二つの神経回路を初めて明らかにしました。オレキシン受容体欠損マウスはナルコレプシーの症状を示します。このマウスの青斑核・ノルアドレナリン産生神経細胞のみでオレキシン受容体を回復すると、睡眠発作が大幅に減りました。対照的に、背側縫線核・セロトニン産生神経細胞のみでオレキシン受容体を回復すると、情動性脱力発作が殆ど起こらなくなりました。さらに,人工化合物CNO のみによって活性化される人工受容体をそれぞれの脳領域に導入し人為的に活性化しても、同様の結果を得ることができました。したがって、ナルコレプシーに特徴的な二つの症状は、二つの異なる神経メカニズムによって抑制されることが明らかになりました(図参照)。ナルコレプシーのみならず、不眠症などさまざまな睡眠障害の対処に応用できると期待されます。さらに、人工化合物−人工受容体を用いてナルコレプシーを抑制できた結果は、新たなコンセプトの遺伝子治療法にもつながると期待され、より多くの疾患に治療方法を提供できる可能性があります。
Hasegawa E., et al.( Mieda M.) : Orexin neurons suppress narcolepsy via 2 distinct efferent pathways : J Clin Invest. 2014;124(2):604–616