日本生理学雑誌第72巻 7・8号

SCIENCE TOPICS - 膜伸展刺激による軸索伸長促進とその分子機構 (柴崎貢志) P.171～
PROFILE - 吉村由美子 P.172～
PROFILE - 池田正明 P.174～
中島彰子 (第61 回日本生理学会中国四国地方会奨励賞) P.175～
AFTERNOON TEA - 川俣幸一「昔があるから今がある」 P.176～
AFTERNOON TEA - 前田仁士「ある生理学者の半生」 P.176～
AFTERNOON TEA - 定金理 P.176～
INFORMATION - 千里ライフサイエンス技術講習会G52 P.180～
INFORMATION - プロテオミクス技術講習会「MALDI,ESI,MS/MS,ナノLC,データ解析」 P.180～
RECORDS - 平成21 年度第1 回将来計画委員会議事録 P.181～
CALENDAR - 主な研究集会日程 P.182～
MOURNING - 追悼岩間吉也先生 (香山雪彦) P.183～

表紙の説明

The 36th Congress of the International Union of Physiological Sciences and The 86th Annual Meeting of Physiological Society of Japan(京都)
演題番号:P2AM-16-2
演題:“A constitutively active calcineurin encoded by an intron-retaining messenger RNA is required for hair follicle development”
演者:藤村篤史¹,富澤一仁²,道上宏之¹,西木禎一¹,大守伊織¹,松井秀樹¹
所属:¹ 岡山大学大学院・医歯薬学総合研究科・細胞生理学教室(医学部・第1 生理学教室),² 熊本大学総合医薬科学部門・生体機能病態学講座・分子生理学分野
カルシニューリン/NFAT 経路(以下CaN/NFAT 経路)は毛周期の制御に重要な役割を果たしているが,その詳細はまだ不明な点が多い.我々は今回,カルシニューリンA サブユニットのβ アイソフォーム(CnAβ)の新しいスプライシングバリアント(CnAβ-FK)が毛包内ケラチノサイトに特異的に発現していることを発見した.興味深いことに,このバリアントはintron-retaining mRNA によってコードされており,これにより本来カルモジュリン(CaM)やカルシニューリンB サブユニット(CnB)のカルシウム依存的な調節によってのみ制御される自己抑制ドメインが欠失している.それゆえCnAβ-FK は毛包内ケラチノサイトにおいてはカルシウム非依存的に活性を有しており,NFAT を脱リン酸化することでそれが転写調節する細胞周期抑制タンパク質の発現を促進している.
A:CaN とNFAT の結合を特異的に阻害するVIVIT ペプチドを細胞膜透過型に改変してヌードマウスの頭部に直接塗布した(赤丸).塗布した箇所にだけ強力な発毛を誘導できる.
B:CnAβ の新しいバリアント(CnAβ-FK)の概略図.イントロンを保持したmRNAが翻訳されることでちょうど自己抑制ドメイン(AID)が欠失するようになり,カルシウム濃度依存的なCnB,CaM の制御を受けることなく恒常的に活性を有するようになる.
C:CnAβ-FK 特異的なプローブを用いてin situ hybridization を行い,毛包内における転写様式の局在を解析した(左).興味深いことにこれらのmRNA は毛包内ケラチノサイトに特異的に発現しており,表皮ケラチノサイトや線維芽細胞には発現していない(data not　shown).CnAβ-FK の発現している領域に一致してNFAT が核内に移行している(右).
D:毛包内ケラチノサイトにおけるCaN/NFAT 経路の概略図.ケラチノサイトは本来細胞外カルシウムに鋭敏に応答して容易に分化するが,一方で,カルシウム濃度に依存せず酵素活性を有するCnAβ-FK により恒常的にCaNNFAT 経路が働くことで細胞周期を抑制するタンパク質の転写調節をしている.VIVIT ペプチドが強力な発毛作用を有しているのは,これら細胞周期に抑制的なタンパク質の転写調節を阻害することで,結果として細胞周期阻害因子が減少する(=細胞増殖へ向かう)ためであると推測される.

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