日本生理学雑誌 第72巻 2号

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XXXVI International Congress of Physiological Sciences ―IUPS2009―
第86 回日本生理学会大会(京都)
演題番号:P4AM-7-5
演題:“DIVERGENT EFFECTS OF RHO-KINASE(ROK)INHIBITOR Y27632 ON ANGIOTENSIN II-INDUCED Ca2+-SIGNALING IN RENAL AFFERENT AND EFFERENT ARTERIOLES”
演者:Kosuke Takeya, Kathy Loutzenhiser, Michael P Walsh, Rodger Loutzenhiser
所属:Smooth Muscle Research Group, Faculty of Medicine, University of Calgary, Canada
A.単離したラット腎輸入細動脈.ラット左腎をアガロースを含む組織培養液で還流後,摘出し,氷冷した.これによりアガロースを凝固させ,その後の種々のプロテアーゼ処理により,生体内の形状に近い形状を保持した腎輸入・輸出細動脈を単離した.スケールバーは約20μm を表す.B.平滑筋ミオシン制御軽鎖(LC20)のリン酸化測定.単離した輸入細動脈4~5 断片をプールし,Rho-kinase 阻害剤10μM Y27632 の存在下・非存在下で10nM アンジオテンシンII(Ang II)で5 分間刺激を行った.氷冷TCA/アセトンを加えて反応を停止した後,Phos-tag SDS-PAGE により,非リン酸化(0P)・リン酸化(1P)LC20 を分離した.PVDF 膜に転写後,超高感度ウェスタンブロッティングにより分離したLC20(~200pg)を検出・定量した.Y27632 存在下ではAng II によって誘導されるLC20 のリン酸化が顕著に減少した(C, *p<0.005). D. Fura-2 による腎輸入細動脈の細胞内[Ca2+]i の測定.単離した輸入細動脈をカバーガラス上に固定し,Y27632 の存在下・非存在下で10nM AngII による[Ca2+]i の変化をfura-2 を用いて蛍光顕微鏡で観測した.Y27632 非存在下では,Ang II は持続的なCa2+の流入を引起こしたが,Y27632 存在下ではこの持続的なCa2+流入の抑制が見られた.一方,輸出細動脈ではこのようなAng II によって誘導される持続的なCa2+流入のY27632 による抑制は見られなかった(データ未掲載).E.輸入細動脈平滑筋のAng II 刺激による収縮制御モデル.Ang II は血管平滑筋細胞表面のG タンパク質結合型受容体に結合し,膜の脱分極を引起こす.脱分極によりL 型Ca2+チャネルが活性化し,細胞外からCa2+が流入し,脱分極が続く間,持続的なCa2+の流入が起こる.流入した細胞内Ca2+はカルモジュリン(CaM)を介してミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)を活性化しLC20 のリン酸化を引起こす.一方,Ang II はG12/13 経路を通じて,Rho-kinase を活性化する.活性化したRho-kinase はミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCP)をリン酸化し,その脱リン酸化活性を抑制する.これによりLC20 のリン酸化が亢進する.Y27632 によりRho-kinase を阻害すると,MLCP の脱リン酸化活性の抑制が小さくなり,LC20 のリン酸化の亢進は起こらない.さらに,今回我々の研究により,ラット腎輸入細動脈内では,Y27632 により持続的なCa2+流入が抑制される可能性が示された.これはY27632 が電位依存性K チャネルの開閉にも影響を与えているためと考えられる.従って,輸入細動脈においては,Y27632 はMLCPの活性の上昇させるだけでなく,Ca2+流入の抑制によりMLCK の活性を低下させ,結果として,LC20 のリン酸化の抑制,および平滑筋の弛緩を引き起こすと考えられる.