日本生理学雑誌 第69巻 6号

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表紙の説明

第84回日本生理学会大会(大阪)
演題番号:3PIA−038
演題:「ハブトビンは,血小板凝集初期のFAK−Tyr397リン酸化を抑制する」“Habutobin inhibited the phosphorylation of Tyr397 of FAK at an early stage of collagen induced platelet aggregation”
演者: 中村真理子,吉岡美和,中村一直,砂川昌範,小杉忠誠
所属: 流球大学 医学部 形態機能医科学講座 生理学第一分野
ハブトビンは,1986年に小杉らにより発見されたハブ毒由来のトロンビン様酵素で,家兎のフィブリノーゲンをフィブリンヘ変換する際,フィブリノペプタイドAのみを遊離する,Type A−トロンビン様酵素である.これまでの研究では,ハブトビンが血小板膜上のintegrinβ3に結合する.また,コラーゲン凝集時のLagtimeの延長と,凝集抑制を引き起こすのを報告した.本研究は,血小板内伝達機構に着目し,血小板内チロシンリン酸化を中心に,ハブトビンによるコラーゲン磯集抑制機序を推察した.図中の1-4は,1:ハブトビン非添加,2:ハブトビン(12.5μg/ml)添加,3:ハブトビン(25μg/ml)添加,4:ハブトビン(50μg/ml)添加をそれぞれ示す.
(A)ハブトビン非添加に比較して,ハブトビン添加では,ハブトビン濃度依存性にコラーゲン凝集時のLag timeの延長と,擬集率の減少が見られた.同時期の血小板内蛋白のチロシンリン酸化は,ハブトビンの濃度依存性に120kDaのチロシンリン酸化蛋白の消失がみられた.FAK抗体を用いた免疫沈降法により,消失した蛋白の本体はFAKと判明した.
(B)FAKの免疫沈降試料では,ハブトビン濃度依存性にFAK−Tyr397リン酸化の抑制が見られた.文献より,integrinβ3の細胞内ドメインにFAK−Tyr397の結合部位は存在すると報告されている.
(C)ハブトビンの擬集抑制機序は以下のように推察した.すなわち,ハブトビンがintegrinβ3へ結合するによりFAK−Tyr397の位置や構造が変化し,その下流に存在するSH2やPI3K(p85)のリン酸化が引き起こす細胞骨格変化が遅延し,血小板凝集を引き起こすためのLag timeの延長が生じ,凝集抑制が引き起こされる.