日本生理学会誌 第78巻2号

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表紙の説明

大会名:第92 回日本生理学会大会

演題番号:P2-015

演題名:腸壁内神経切離吻合術を受けたマウス小腸における5-HT4 受容体を介する移植した脳由来神経幹細胞からの神経分化促進作用

演題名(英語):5-HT4 receptor-mediated facilitation of neurogenesis of enteric neurons from transplanted brain-derived neural stem cells in the deep tissue of mouse small intestine underwent transection and anastomosis

演者:後藤 桂1,川原 勲1,國安弘基1,稲田浩之2,鍋倉淳一2,高木 都1

所属:1 奈良県立医科大学医学部医学科分子病理学講座,2 自然科学研究機構生理学研究所発達生理学研究系生体恒常機能発達機構研究部門

説明(キャプション): 我々は壁内神経細胞が蛍光標識された遺伝子改変マウス(Thy1 promotor YFP H-line mouse)の2 光子励起顕微鏡(2PM)によるin vivo イメージングを実施することで,従来の共焦点顕微鏡を用いた手法では観察が困難であった小腸の切離吻合術後形成される肉芽組織深部の詳細な観察を可能とした.そしてその手法を応用し,損傷腸壁内神経系の再生・新生過程に対する5-HT4 受容体作動薬モサプリドクエン酸塩(MOS)の効果を明らかにした.この背景を踏まえ,本研究では再生・新生した神経細胞の起原および損傷腸壁内神経系の再構築過程を明らかにするため,術後にC57BL/6 マウス胎児の海馬と脳室下帯由来の神経幹細胞をPKH26 蛍光色素でマーキングして尾静脈から移植する細胞移植実験を実施して検証した.

A:回腸切離吻合術直後にPKH26 赤色蛍光色素でマーキングした神経幹細胞を尾静脈より移植し,2 週間飼育したマウスの吻合部2PM in vivo イメージング画像.常在性の神経幹細胞から分化した新生神経細胞(white arrows),移植した神経幹細胞から分化した新生神経細胞(yellow arrows), およびCell process(thin yellow arrows and dotted yellow arrows).

B:マウス一匹当たりの吻合部領域におけるPKH26 陽性細胞およびYFP 陽性細胞数(SB:5-HT4 受容体拮抗薬SB-207266).MOS 群ではPKH26 陽性細胞数およびYFP 陽性細胞数のどちらもVehicle 群の約2.5 倍を示しており(P<0.005),SB はその作用をほぼ完全に抑制していた.

C:吻合部を含む小腸の縦切り凍結切片標本の抗PGP9.5 抗体による免疫染色画像および共焦点顕微鏡画像.PGP9.5 陽性神経(節)細胞はPKH26 陽性細胞から構成されており,血流を介して移植した神経幹細胞は肉芽組織深部で神経細胞に分化している事が認められた.

以上より,MOS は小腸においても神経幹細胞からの損傷腸壁内神経系の再生・新生促進作用を示すのみならず,切離吻合術後の吻合部肉芽組織内への血流を介した神経幹細胞の動員を促進する作用を有し,かつ5-HT4 受容体の活性化により移植された中枢神経由来の神経幹細胞からの腸壁内神経形成を促進する作用を有することが明らかとなった.

利益相反の有無:無し