日本生理学雑誌 第78巻1号

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表紙の説明

第92 回日本生理学会大会

演題番号:P2-030

演題名:「ホヤ末梢神経の誘導メカニズム」

“The mechanism for induction of ascidian peripheral neurons”

演者:大塚幸雄1,岡村康司2

所属:1 産業技術総合研究所・バイオメディカル研究部門,2 大阪大学大学院・医学系研究科・統合生理学教室

 ホヤは尾索類(幼生の尾部に脊索をもつ動物)に属する脊椎動物に最も近縁な無脊椎動物である.ホヤの幼生は脊椎動物と非常に似た体制をもつため,ホヤ初期発生の研究は脊椎動物の発生や進化を理解する手がかりをもたらすことが期待される.本研究では,脊椎動物に固有な構造である神経堤とプラコードの起源を探ることを目的として,ホヤ幼生頭部感覚神経の誘導メカニズムを細胞・分子レベルで解明することに取り組んだ.

ホヤ幼生の頭部には機械刺激を受容する10 個の感覚神経が存在する.まず,この頭部感覚神経の前駆細胞が神経堤・プラコードと同様に神経板と表皮の境界に存在するかを調べた.DiI を用いたトレーサー実験により,後期嚢胚期において頭部感覚神経の前駆細胞は神経板と表皮の境界に存在する6 個の細胞であることがわかった(図A).つぎに,神経堤・プラコードの形成に重要なBMP シグナルがホヤ幼生頭部感覚神経の誘導に関与するかを調べた.BMP2/4 に対するモルフォリノアンチセンスオリゴ(MO)でBMP シグナルを阻害した胚では頭部感覚神経の分化が完全に阻害され,またBMP2/4 を過剰発現した胚でも頭部感覚神経の分化が阻害されたことから,頭部感覚神経の誘導には適当量のBMPシグナルが必要であることがわかった(図B).以上のことから,感覚器・末梢神経系を作り出す基本的なしくみはホヤと脊椎動物で共通していると考えられる.

A:ホヤ幼生頭部感覚神経の細胞系譜.上段は頭部感覚神経(黄)の細胞系譜を解析した結果を模式的に示したもの.後期嚢胚期に表皮(白)と神経板(青)の境界部分の割球(赤)をDiI でラベルし(上段左),感覚神経マーカーの抗体で染色した.下段はDiI(赤),感覚神経マーカー(緑)の染色像とDIC 像をマージしたもの.DiI ラベルされた細胞のなかに感覚神経マーカーを発現する細胞(矢じり)が存在した.

B:ホヤ幼生頭部感覚神経の誘導におけるBMP シグナルの役割.BMP2/4 に対するモルフォリノアンチセンスオリゴ(BMP2/4MO)を外胚葉前方右側の細胞に顕微注入した幼生(左)とBMP2/4 のRNA を1 細胞期に顕微注入した幼生(右)を感覚神経マーカーの抗体で染色した(緑).

利益相反の有無:無